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階層詳細 第零階層 第一階層 第二階層 第三階層 第四階層 第五階層 第六階層A 第六階層B 第六階層C 第六階層D 終わりと始まりの地
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エピローグ〜one year later…5〜 出雲、第四層居住区画。 一番広いエリアである第四層は、庶民のアパートやマンションが立ち並ぶエリアになっている。 以前、神風学園の留学で来た時には、第三層の商業区画までの立ち入りが許されていたが、近年のギュンター達が引き起こした革命軍によるテロのせいで第三層ですら厳しいチェックが今でも行われている。 そんな中、一人のハンターが大和・葵〜出雲第四層間を繋ぐ、国際定期船から出雲の地へと降り立つ。 彼を出迎えるように、空港には一人の青年が待っていた。 「おーっすイリューダ、大和ぶり〜」 「おーっすシズモ、大和ぶり」 入生田宵丞は、ハンターを辞めて世界中で旅をしているという噂の鎮守由衛と久しぶりの再会を果たす。 と言っても、携帯電話でちょこちょこ連絡をとっていたため、直接でなければ久しぶりとまではいかないのだが。 「こうして顔を合わすのは半年ぶりくらい?」 「前に僕が大和に帰国した時以来だし、そのはずだけど」 「なんで説明口調なのシズモ」 ふ、と可笑しそうに笑いながら、二人で空港内を歩きつつ早めのランチを済ます。 ランチを済ませた後は、適当に空港内の店でショッピングを行う。 その後、半年ほど前に新設されたハンターギルド・出雲支部へと向かう事になった。 「そういやシズモ、ちゃんと野菜食べてんの?さっきもハンバーグだったけど」 「え?とってるとってる。毎日野菜ジュース飲んでるし。そんな事よりも、最近イリューダはどうなの?1ヶ月くらい連絡とってなかったけど」 「相変わらずかな」 怪しそうな鎮守から目を自分の買い物袋へと移す。 そこには何と、Iris+の新譜が購入されていた。 発売されたばかりのCDに、鎮守も顎に指をあてて感嘆のため息をつく。 「へぇ〜、おーきちゃんもそうだけど、ろっかくや君も頑張ってんじゃん」 「そのろっかくや、今度ライブやるってさ。おーきちゃんとは別の、元からやってるバンドだけど」 「へー」 鎮守の真似をした呼称で、ライブ情報を伝える宵丞だったが、途端に興味を無くしたような相槌の鎮守に笑う。 Iris+とは、最近売り出し中のモデル、王貴桃李と大和のインディーズでも人気が出てきたバンドに所属する六角屋灼。 その異色な二人のユニットという事で人気もそれなりに出てきており、今度テレビでの出演もあるらしい。 「でもそのIris+じゃないんでしょ?ろっかくや君は別にどーでもいいしなぁ」 「それが意外といい曲なのよ」 「うーん、イリューダがそこまで言うなら、今度聞いてみてあげてもいいけど」 「そーして」 タクシーに揺られながら、出雲支部へと向かう二人。 その道中、雑貨屋ジョースターが目に入った。 「あ」 「お気づきになられましたか」 「なったなった。まだあるんだね」 ドヤ顔をしつつ、ウザったい言い方の鎮守に気にせず頷く宵丞。 鎮守の説明によれば、栄生ジョースターが亡くなり一度は閉店になったものの、その後息子である栄生ホルノが店ごと買い取り経営を続けているらしい。 オーナーであるホルノも、月に一度は寄るとか。 「へー、ギルドに寄った後にでも行くかな」 「僕はもう行ったけど、イリューダが行くなら付き合うぜ」 「じゃあ行こうか。後で」 笑い合うと、ちょうど出雲支部へとタクシーが到着する。 ハンターギルド・出雲支部。 3層ではないので、雑居ビルというほど雑居していない雑居ビルの1階に入っているチェーン店のような場所に、出雲支部は存在する。 「いつ来ても、墨本堂とそんな変わらない広さに笑う」 「それってイリューダの今住んでる場所だっけ。茜の」 「紅だよ、茜寄りだけどね」 元々ハンターギルドはどこもそこまで広くは無い。 訓練所がかなりの広さなだけで、受付も講義室もむしろ狭いのがハンターギルドだ。 だが、この出雲支部は明らかに狭すぎる。 というか周りのテナントと被りすぎているのだ。 笑いながら、二人はギルドの中に入ろうとしたとき、鎮守が大声を出して驚く。 「ってええ!?イリューダ、いつきてもってギルドに来たことあるの!?」 「…今更すぎじゃねシズモ。今日で3回目だけど」 「ええー…じゃあ雑貨屋ジョースターも」 「知ってた知ってた。2〜3ヶ月前かな、前来たのは」 「そっちのまだあるんだね、か。イリューダも人が悪いぜ」 「メールに書いたはずだけど」 僕携帯止まっててわからなかった、と可愛い顔で言う鎮守に「またかい」と突っ込みを入れつつギルド内部へと入る二人。 これで宵丞が知るだけでも2回目だ。 「やっと来たか。お前さん達、言ってた時刻より2時間オーバーだぜ」 「鎮守君、昨日の依頼は終わったの?」 二人を受付で出迎えたのは、出雲ギルド支部長である風見次郎と、出雲支部に在籍するハンター兼彼の補佐でもある真田斎だった。 出雲支部はハンターが6人と人手が足りないため、ギルド員も彼らが兼任している。 彼らが、と言っても風見と真田が専らその仕事をしており、他のハンターは受付くらいしかしていないが。 「終わった終わった。後は3日くらいあれば解決するんじゃない?」 「まだ終わってないなら、そうと言ってよ。依頼主には俺から伝えておくから、後1日で解決してきてね。期日今日までなんだよ?」 鎮守の発言に苦笑しつつ、しょうがないなぁ、と依頼主へと電話を掛ける真田。 それを見て、今度は宵丞が少々驚いた顔を見せた。 「シズモ、旅してんじゃなかったの?」 「僕はいつでも旅人だぜ。心の中はね☆」 「出雲支部所属とか、聞いてなかったんだけど。シズモも人が悪いぜ」 今知った衝撃の真実に、先ほどの鎮守のセリフを借りて返す宵丞に、「ごめーん☆」と軽い口調で返す鎮守。 おそらく宵丞じゃなかったら、怒っている態度だろう。 現に風見も最近でこそ無意味だと悟り怒らなくはなったが(真田は高等部時代に悟った)、彼が移籍した当時は結構小言や注意も言ったという。 一度は本気でキレたらしいが、それでも改善が見られなかったため諦めの境地に達したようだ。 「はぁ…鎮守も、せめて受付くらいはしてくれよ…。俺も5件依頼入ってるんだぜ?」 「えー!僕が受付とか、依頼も来なくなるぜ?それより真田パイセンに任せればいいじゃない。今日依頼無いでしょ確か」 「あのー、俺も依頼一件、入ってるんですけど…」 「お前さんが入生田を迎えに行っている間に、一件入ったんだよ」 「それを言ったら、僕だって一件依頼入ってるぜ?」 「それはお前さんが解決してないからだろ!」 思わず風見も真田も苦笑い。 相変わらず、どころか前より酷くなった気もしないでもない鎮守だ。 「そんなわけで入生田、お前さんには悪いが、これも何かの縁ってことでこいつを助けてやってくれ」 「ごめん入生田君。鎮守君には後できちんと言っておくから」 「別にいいですけど。依頼内容あります?」 鎮守の滞納している依頼のため、即答でOKだった宵丞に風見は感動しつつ、これだ。と詳細がメモされた紙を渡した。 内容は離婚調停中の二人の仲を取り持つという内容。 依頼主はその娘さんのようだ。 「…」 「いや、言わなくても言いたいことはわかるぞ入生田。鎮守に合った依頼じゃないんじゃ、と言いたいんだろう?」 「他のハンターも、既に依頼数件持ってるし、俺が受け持っても良かったんだけど…」 「そうなると鎮守は携帯代も払えないくらいピンチになるってわけだ。今だってこいつの携帯代を払うために、俺がポケットマネーから払ってやってるんだぜ?」 「そんな事になってんの、シズモ」 「だって依頼がないならお金が入らない世知辛いシステムなんだぜ?イリューダ」 「そりゃあ世知辛いねぇ」 『当たり前だ!!』 乗った宵丞と反省しない鎮守に、真田と風見は苦笑しながらツッコミをいれる。 「とにかくだ、入生田にもきちんと依頼として回しておくから、鎮守のお守り、任せたぜ。3日は滞在するんだろ?真田、茜ギルド長への連絡は任せる」 「ちょっと風見さん!俺だって嫌ですよ!」 「新城ギルド長も随分な言われようだね」 「まー普段の行いってやつじゃない?」 「お前さんが言うなっての!」 「おっと、これ以上ウインドや真田パイセンの機嫌を損ねる前に、依頼に行こうぜイリューダ」 「はいよー、じゃあ行ってきますウインドギルド長に真田パイセンさん」 軽いコントをしつつ(風見達はそうではないのだろうが)、二人は依頼の解決の旅に出ていった。 二人が出ていった後、風見と真田は大きなため息をついた。 「本当参るよなぁ…真田、鎮守の奴はどうにかならないのか?」 「いやぁ俺に言われても…。王貴君か入生田君くらいしかわからないですね」 「他の3人はシビアだし…はぁ」 「お、お疲れ様です風見支部長」 「お前もな、真田」 ギルドの狭い室内を眺めつつ、二人はもう一度大きなため息をついた。 ◆風見次郎 異次元帰還後、葵を中心にハンターとして活動を行う。 またAクラスに昇格し、それと同時期に出雲ギルド支部長への打診もあったため、承諾した。 出雲支部長に就任したものの、真田以外癖のある4人のハンターの適正を考慮しつつ、上手い事捌いているため、ギルド長としての資質もそれなりにあるようだ。 特殊技研究は、今の所多忙なため活動停止中。 ◆真田斎 異次元帰還後、半年間は茜ギルドでハンターとして所属した。 その後、風見に誘われたのもあり、出雲支部に移籍した。 早良結愛、木の下コモ、白神凪、桐石登也、音無輪とは未だに連絡をとってはいるが、最近仕事の愚痴が増えてきているため、ここ数ヵ月は誰とも連絡を取っていない。
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エピローグ~one year later…9~ 蒼ギルドから出発した次の日。 甚目寺禅次郎と小此木剛毅は、危険区域のとある民家へと来ていた。 この辺りの魔物が凶暴化し、危険区域に指定されたのが先月。 周辺の住人の退去率は1割弱。 危険区域に指定されたので、すぐに退去してくださいと言われても、転居手続き等様々な問題が積み重なる。 国から支援金は出るが、余程現在の暮らしに満足していない者でなければ退去しない者が殆どだ。 そのため国からの支援金を村で持ち寄り、ハンターに周辺の魔物掃討や警備をお願いする場合が多くなっている。 「しかしまァ、蒼も物騒になったもんだな」 「蒼全土の8割が危険区域、もしくは特別危険区域ですからね…魔物掃討の依頼もここ3ヶ月で7割以上ですし、実績を積むなら蒼ギルドに所属するという人が増えていると聞きますが…」 禅次郎は斜め前先を歩く小此木を見る。 Aクラスハンターであり、雷神の異名を持つ小此木剛毅。 影では戦闘狂と言われるほどのバトルマニアでもある彼が、近年増えてきているとは言え蒼特区ギルドより魔物の質が落ちる蒼ギルドに移籍したのはなぜか。 一時期そういう疑問が浮かんではいたが、何回か依頼を共にすることにより、禅次郎には彼の人となりが見えてきた気がしていた。 「ふぅん…ま、お前みたいな奴も中にはいるみたいだな」 「はは…」 禅次郎は苦笑を浮かべた。 紅ギルドから移籍し、蒼ギルドに来た彼もまた、今自分が言ったように実績を積むために蒼に移籍したわけではない。 今日の依頼も魔物退治ではあるが、彼の目的はそうではなかった。 とある民家の扉をノックすると、「どうぞ」と返事が帰ってくる。 「お邪魔します」と断り、扉を開け足を踏み入れると、そこには二人のハンターの姿があった。 「よく来たね。歓迎するよ」 「これでも忙しいんだ。とっとと依頼内容を言えよ」 「相変わらずだな小此木剛毅…。それに依頼を受けてくるのは、甚目寺だけだと聞いてたんだが…」 「いいじゃないか兄貴。説明をするから、とりあえず椅子にでも座ってくれ」 小此木と禅次郎を迎え入れたハンターの二人。 それは砂川亮太・瑛太の兄弟のハンターだった。 ☆ 「変な魔物がいるだと?」 訝しそうな眼で、ハンター兄弟を見る小此木。 対して禅次郎は真剣に話を聞いている。 「だからお前は来なくてもよかったのに…」 「兄貴、前に小此木に魔物と一緒に攻撃された事、まだ根にもってるのは分かるけど抑えて…」 「そんな事してたんですか?」 「しらねェな」 話を戻す、と亮太が言い、説明を再開した。 「そうだ。一応仮に魔物と説明してはいるけど、おそらくは幽霊の類だな」 「俺も兄貴も霊感があるから、結構そういうものと遭遇することがあるんだよ」 「だから小此木、お前は必要ないぞ。どうせ役に立たん。怪異に遭ったことがあると聞いた甚目寺だけでいい」 「あ?」 「兄貴…魔物退治もあるから、小此木はいた方が…」 「いや、こいつは外す。また魔物と一緒に攻撃されてもたまらんからな」 「本当、執念深いぞ兄貴…」 やれやれと言わんばかりに、鼻で笑い大げさに両手を開く小此木。 その様子に頭にきたのか、亮太が更に言葉を捲し立てる。 「何がおかしい?お前のそういう態度が、他の奴から嫌われているんだよ!どうせ砂金も、事故じゃなくお前が殺したんじゃ――」 ガン!とテーブルが思い切りひっくり返った。 小此木が蹴り倒したのだ。 彼は無言で、亮太を睨みつけるように見る。 「…悪い小此木、兄貴の失言だった。兄貴も少し落ち着け、こいつのせいで病院送りになったのは腹立つかもしれないけどさ」 「あの、とりあえず話の続きを」 「おっとそうだったな。悪い甚目寺、説明は今度は俺からするよ」 一部は険悪な空気のまま、話が再開された。 纏めると、退治すべき魔物の中に一体、後方から見ているだけの魔物がいるらしい。 そしてその魔物は、魔術を当てても特に動じる事はなく、いつの間にか消えているとの事だ。 砂川兄弟が怪異も絡んでいると判断し、ギルドに魔物退治の応援がてら、依頼をしたという事らしい。 「とりあえず、チーム分けは俺達兄弟、小此木と甚目寺でいいか?俺達は魔物掃討、甚目寺と小此木はその不思議な魔物だけを狙ってくれ」 「わかりました」 「おい、怪異に遭ったことがあるっていう甚目寺はわかるが、俺達がその魔物を狙った方がいいんじゃないか?」 「それはそうなんだけど…察しろよ兄貴…」 「と、とにかく現地にいきましょう。ここから近いんですよね?」 4人は移動を開始する。 山道を走る車の中、悪い空気を打破しようと瑛太が禅次郎が持つブレスレットに気付いた。 「あれ、甚目寺そのブレスレットってお前の魔導具か?」 「いや、魔導具じゃないだろ。そこまでの力は感じないぞ」 「でもなぁ…武器とかとも違う感じが…」 さすが霊感兄弟、と思いながら、禅次郎はまず首を横に振り否定する。 そしてブレスレットを見て。 「ちょっととある知り合いから貰いまして」 「エストレアか」 「エスト…なんだって?」 「また小此木がワケわかんないことを…」 ブレスレットの話は、小此木にもしたことが無かったためよく気づいたな、と驚きの視線を送りつつ、どう説明したものかと砂川兄弟を見やる。 この二人は、エストレアという竜を知らない。 そのためそれ以上は語らず、また今はエストレアとの最期を語る時間も無かったため「それについては今度」と小此木を納得させた。 車から降りた後も他愛もない会話をしつつ、山道を更に進んでいく。 「お二人さん、ここが目的のポイントだぜ」 「8…いや9か。獣にしては手際がいいじゃねぇか」 先導している瑛太が、すぐ後ろを歩く禅次郎と小此木に声をかけた。 すると待っていたと言わんばかりに、突如四人を取り囲む亜人タイプの魔物。 それらも見た事の無い種であったが、それとは別に後方に一体。 小此木が言い直した数の9体目。 「…あれですね」 「ああ。おそらく幽霊の類だと思うんだが…」 亮太が言い終わる前に、急に辺りに雷光が迸る。 そしたら一瞬で辺りの魔物は消滅し、その一体だけが残った。 亮太は驚きから怒りの表情へ、その顔は小此木に向けられた。 「小此木ィ!またお前は勝手に…!」 「あれは…!」 怒号を遮るように、瑛太が9体目の亜人を見た。 その亜人の体はバチバチと雷を奔らせ、一瞬狼狽した様子を見せる。 禅次郎は「成程」と言うと、手帳を取り出して確認をする。 「機械を使いこなすなんざ、人間みたいな亜人もいたもんだ」 その亜人は消えた。 他の亜人がやられたからではないのだろう。 おそらく、正体を見破られたから。 「お、おい!わかるように説明してくれ!」 他の亜人の殲滅という仕事を取られた亮太が、二人に問いかける。 説明は禅次郎の口からされた。 「以前、葵方面で出回っていた機械ですね。その時も幽霊騒ぎになりましたが、実際は機械によるホログラフだったようです」 「ホログラフだァ?」 「はい。それを小此木さんがスキャンしてみて把握したというのが、今の形です」 改めて説明をしつつ、禅次郎は小此木の規格外っぷりを理解する。 要は雷光でダメージを与えつつ、サーチアイをかけているようなものだ。 サーチアイは魔術だから、あまり機械の幻影等の把握は難しいが、彼にとってはそんなものはお構いなしらしい。 なぜ禅次郎とよく同行してくれるのかは謎だが、一緒の時はその能力に助けられている。 「は、はあ。まあつまりその機械を見つけて壊せば、一件落着ってことか。幽霊ではない…ってことか」 「そうなりますね。小此木さん、場所は分かりますか?」 「あっちだ」 小此木が指し示す方角へ、全員は歩き出した。 あくまで小此木が感じた電磁波の把握のため、魔力とは違い機械を放って逃げられてしまっては、機械を動かしていた本体の撃破はできない。 「まあ、その時は破壊すればいいんだろ?」 「い、いいのかな…」 簡単に破壊という瑛太に苦笑を浮かべる禅次郎。 おそらく安い機械ではないはずだ。 そんなものを簡単に壊してもいいのだろうか、とも思ったが、ここは依頼主である彼らに判断を任せる事にした。 だが、そんな事よりも禅次郎には気にかかる事があった。 「…」 「どうした?」 「いえ、杞憂だったらいいんですけど…」 禅次郎も霊感自体は有る方ではないが、亮太と瑛太のいう事が事実なら、霊感で幽霊と判断したような印象を受ける発言だった。 それなのに、今はそういった感じは全くなかったし、亮太と瑛太もこちらの機械発言に納得してしまっている。 少々妙だ。 その引っかかりがまさか大事件になるとは、今の四人には思いもしなかった。 ◆砂金美作 異次元帰還後、とある依頼で嵐の日に、子供を助け庇った時に崖から落ちて急流へと放り込まれる。 捜索もされたものの、以後彼の姿を見た者はいない。 ◆小此木剛毅 異次元帰還後、砂金と共に受けていたとある依頼を機に蒼ギルドへと移籍した。 禅次郎だけでなく、桐石登也の稽古にも付き合ったりと、面倒見がよくなったという噂があるが、真偽は不明。 ☆ 「…で、その後はどうなったのだ?」 「続きは今書いてるよ。今回の話の小説を持ち込んだら、とりあえず後編を読んで面白ければ掲載するって言ってくれたしね」 それから数か月後。 禅次郎は恋人である藤八沙耶と電話で近況報告をしていた。 あの時の幽霊騒ぎを参考にした小説を執筆し、とても小さな出版社ではあるが、面白い、後編も読んで判断したいと言ってくれた事だけを報告。 本当なら先の事も話たくはあったのだが、彼女も本という媒体で見たいと言ったため、これ以上の話は語らない事にした。 昨年の事件と比べると、ほんの小さく不思議な怪異。 だが、確かにそこにあった怪異。 禅次郎は、これからもそういった類の依頼を受けて、体験し、それを元に小説を書いていくのだろう。 ◆甚目寺禅次郎 異次元帰還後、蒼ギルドへと移籍する。 そこで依頼の傍ら、ホラー系の小説作家としても活躍する事になっていくのだが、それはまだ先の話。 そしてそうなるにつれ、ハンターとしての活動も少なくなるが、こういった調査にはハンターの肩書は便利なため、小説家として生活出来るくらい売れるまでは続けていくのだろう。
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後日譚~共通エピローグ~ 現実世界へと帰還した貴方達は、難なく日常に戻る事ができた。 全ての者は、先日まで普通に登校、もしくはハンターとして、軍人や騎士団として勤務や各地を動いていた体になっていた。 そしてこの異次元にいた3ヶ月の記憶は、各々の記憶として残ってはいたが、それと同時に現実世界での不自然さを生まないために、現実世界で学園に登校や仕事に就いていた記憶もあった。 ――世界は、改編されたのだ。 ☆☆☆ まずハンターカード、煌石が無くなっていた。 そのため皆、カードを手に入れた当初よりも弱くなっていたものの、闊歩する魔物もそれに合わせた強さになっていた。 今にして思えば、魔物が急に強くなったのもハンターカードや煌石が出てきたのもアドラメレクの仕業と考えてもよかったのだろう。 さて、肝心の改編部分だが、順を追って説明していこうと思う。 2年前の年末。 漣島に訪れた貴方達は、ランマーと呼ばれる巨大な蛸型の魔物と遭遇した所からだ。 【碧海の深き遺宮・前編】 魔物ランマーの能力の洗脳により、大城太平と筧利通が裏で動いていた事は変わらなかった。 悪魔ではなく、ただの魔物として分類されていた事が大きな相違点だろう。 【悠久に聳える雪竜の脈動】 ラウム山脈の調査に向かった貴方達は、ラウム神殿・麓で戦神ラウムと出会う。 グレイシアと言った五大竜は改編された世界では存在せず、ラウムも神として崇められている存在だった。 ラウムを倒した貴方達だったが、白神凪はラウムに憑かれ、寿命と共に戦神としての力を手に入れたという事になっていた。 ラウムの命の源ともいえる神玉(黒耀玉)は、魔物の力を操る尸黄泉と包帯の男によって回収されたという点は変わらず。 そして、調査終了後。 織ヒカルは水鏡流星に呼び出され、洗脳された水鏡の手により重傷を負う事になる。 以後、織ヒカルは意識不明の重体が続き、意識を取り戻したのはつい最近の3月という改編になっていた。 【深淵のエクスハティオ】 蒼特区、エクスハティオという古神がいたと言われている場所を貴方達は調査した。 戦神ラウムの噂を聞いた小此木剛毅の依頼によるものだ。 調査は無事に終わり、『竜の秘宝』は『神の秘宝』として小此木の手に渡る事になる。 が、それも束の間。 調査終了後に現れた土御門正宗・伍代により、小此木は倒れる事となり、秘宝を奪われてしまう。 そして伍代を撃破した柳茜は、戦神ラウムと共に魔物と戦ったカーネリアの異名である『戦乙女』の名で知れ渡る事となる。 竜が存在しない以上、竜の戦士と呼ぶ者はもういないのだ。 【碧海の深き遺宮・後編】 魔物ランマーを討伐するべく、再度調査を開始した貴方達。 飛鳥軍と連携をしつつ、黒幕であった双海思永を倒した。 正気に戻った双海は、今は蒼ギルドで大城達と共に捕まっているそうだ。 【東海に眠る竜】 魔物バルガを討伐するべく、貴方達は飛鳥軍と協力して海底神殿へと向かった。 そこにいたのは、ウロボロスではなくバルガ達の親玉、魔獣バルガランという上位魔物だった。 ウロボロスが存在しないため、未来や過去の予知もなく、貴方達はバルガランを飛鳥軍と協力し撃破した。 【運命の塔】 洗脳された東十常剣が起こした、此度の事件。 しかし、悪魔ロノウィは既にいないため、ロノウィの力はなくとも化け物レベルの強さを持つ土御門正宗を殺すことは叶わず。 イーストセントラルタワーにて、強襲してきた水鏡流星と互角どころか圧倒し、命を落とすことは最後までなかった。 結局、洗脳された東十常剣も正宗によって捕まった。 優位に傾いていたが、カッツェの爆弾によりタワーが爆破され、さすがの正宗もこれにより避難することになった。 そして、この事件により佐治宗一郎は行方不明として、姿が消えることになる。 佐治が東十常剣を庇い、洗脳された水鏡に貫かれる所は変わらなかったのだ。 違う点は、この時点まで水鏡が洗脳されていた点だ。 ベレトの力を水鏡が手に入れることが無かった世界。 そのため、水鏡が正気に戻ったのは、この事件で貴方達に負けた時にやっと、だったのだ。 【異空の大樹】 戦神ラウムの声を、憑りつかれた凪以外で聞けるという存在の一人、カーネリア大聖堂の大神官でもあるウバルという男に導かれ、貴方達は真実を知る事になる。 包帯の男が全ての事件の黒幕で、気象制御装置を復活させてこの世界を終わらせようとしている事。 水鏡によって刺されたが、突如現れた漆黒の鎧の者が佐治宗一郎を時間の進まない異次元へと転移させたため、彼を救う方法がエストレアという出雲の機械竜が知っている事。 大神官ウバルからその話を聞いた貴方達は、機械竜エストレアが眠る異次元へと向かった。 そこで、包帯の男と協定関係にあった松原クリストフの孫娘のエレナ。 また水鏡流星も人間であったため、ユグドラシルの水を飲んで正気に戻った。 佐治宗一郎も救い、無事に全ての解決へと向けてゆっくりと進み始めた。 【ラストイベント:気象制御装置ハルフェの停止】 ラウム山脈山頂、ラウム神殿最奥にて包帯の男を追い詰めた貴方達。 神の秘宝によりハルフェを起動させるも、尸黄泉や槐志度といった者達の助けを受け、貴方達は包帯の男の撃破と気象制御装置ハルフェの破壊に成功する。 包帯の男は捕まり、全ては解決したのだ。 そう、滅びの星ハミルトンやアドラメレクが消滅したため、この世界の問題は全て――。 ☆☆☆ 粥満ギルド地下、特別犯罪者収容所。 災害レベルの犯罪者達を収容するこの場所に、一人の男がやってきていた。 「…随分と久しぶりだな」 「…何しにきた。宮廷の犬が…。それにお前とは会ったこともない」 改編された後の世界では、一切事件にかかわらなかった神崎信の姿が。 そして、彼が会っているのは包帯の男だった。 「そうか。『この世界では』初めてだったな」 「…意味が分からないことを…。組織の話なら話すことは何もない。俺は何も知らない上、組織に切り捨てられた時に、組織に関わる全ての記憶が消されているからな」 「…わかっているさ。私に与えられるはずだった、記憶改ざんの力も既に回収されてしまったのはな」 なぜこいつはそこまで知っているんだ、と言わんばかりに、怪訝な表情の包帯の男に、神崎は笑った。 「結局、犬なのはお互い様という事だ。そこで、犬のお前に一つ提案をしよう」 「なに…?」 大陸歴2016年3月31日。 その日、全ての事件が収束するかのように。 神崎信は過去を清算するために。 改編された世界で、自らの代わりに不幸を全て背負った男のために。 カーネリア大聖堂の鐘が、全てを祝福するかのように。 全ての物語は、ここで終わりを告げた――。
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エピローグ~one year later…11~ 葵にある高級マンションの一室。 そこに足を踏み入れた六角屋灼達は、生活感が殆ど無い居間を見る。 「コーヒーでいいから」 「…普通家主が出すもんじゃねぇの」 ハンターである藤咲真琴の部屋があるマンション。 彼はこのマンションの所有者でもあり、彼の部屋には幾つものハイスペックコンピュータが置いてある。 ある理由により、藤咲に借りがある灼は、軽く反論をしながらもコーヒーを入れた。 もちろんインスタントだ。豆から用意する程、グルメな人間でもない。 「Bクラスハンターなんだろ?金ならあるんだし部屋の掃除くらい、したらどうなんだ」 「悪いけど、この前株で大損したからね。マンションと最新型のパソコンを数台入れたら、もうお金なんてないんだよ。ついでに帰る時、居間の掃除よろしく」 と灼と彼の隣にいる志島武生に鼻で笑って言う藤咲。 彼の家事能力は壊滅的であり、一瞬キレイで生活感の無い部屋と思いがちだが、それはとんでもない。 基本的に彼自身の寝室兼コンピュータルームに篭ってるせいで、トイレと宅配以外で部屋から出る事はまず無いのだ。 「お前、パソコン買い替える前に家政婦くらい雇ったら…」 「さすがに値段が違いすぎるでしょ…月30万くらい?」 「20万くらいじゃないのか。いや、この家全部ならそれじゃ足りないくらいかもしれないが」 藤咲の言葉に、武生が家と言うよりマンションだけど、と付け足す。 「へぇ」と興味なさそうに相槌を打つ彼に、灼は「違う」と武生に呟く。 「藤咲…お前の買い替えたパソコン、いくらすんの…?」 「2000万くらいかな。色々オプションつけたり、リモート用に各所への監視カメラ設置の許可とか、そういうのも含めての金額だけど」 「それ家政婦くらい雇えるだろ」 「だからそんな余裕ないんだって。家政婦も年収にしたらその10分の1はかかるじゃない?」 これでも色々安くしてもらってる方、と文句を言いながら、灼が入れたコーヒーを飲む藤咲。 美味いともマズイとも言わない。 その代わり、今度は藤咲から質問が二人にとんでくる。 「で、なんで六角屋が志島と一緒にいるのさ」 「偶々大和に帰ってきててな。それで…」 「ああ、いいや。大体わかった。僕も最近、暇つぶしにDTM始めたんだけど、よかったら使っていいよ」 「今はそれよりも、龍の行方について知りたいんだけど…」 「はいはい、わかってるよ。ただ大和全域の検索範囲と言っても、龍志狼の携帯が、電波の届かない位置やギルドの衛星塔の受信範囲外にいる場合は無理だから。…簡単に言うと、圏外なら諦めてって事ね」 六角屋はせっかちだな、と息を一つつき、藤咲は部屋の扉を開く。 部屋には沢山のワイド画面のパソコンが置いてあり、その中の一つのディスプレイに人物検索マップが映っていた。 それを見て、武生は顔を顰めた。 「大和だけとはいえ、プライバシーも何もあったもんじゃないな」 「衛星を使ってリアルタイムの自分達の地域の道路情報とか見れるんだし、その延長線上じゃない?コード番号は僕が独自に振ってるから、他人に見られても平気だし」 「結局お前は見れるんじゃねえか…」 そんなやり取りをしていると、ふと藤咲がある番号に気が付いた。 ちなみに番号はD-88965745。 「いた。葵にまだいるじゃん。っていうか、一度僕の追跡を振り切ったくせに、また同じ所に戻ってるのがムカつくね」 「彼奴の事だから、また面倒臭い事でも考えてんじゃねぇの…」 「とにかく、六角屋と志島は今からそこに向かいなよ」 藤咲はディスプレイの一つを見て、パソコンを操作し画面を切り替える。 ソーシャルネットワークの会話画面が出てきて、無料通話のボタンを押した。 相手は、向坂維胡琉だ。 「もしもし、向坂さん?藤咲だけど、今ショッピングモールにいるんですよね? 依頼、丁度片付けた所でしょ?一件、追加で受けてもらえませんか。簡単な人探しなんだけど」 『あ、ごめんね。今ベレトを追跡中で…』 「ベレト?向坂さん都市伝説なんて信じてるの?鎧の中身は誰もいません。なのに火事場に現れて喧嘩両成敗して去っていきます。そんな3流ホラーなんて今どき流行らないから、こっち優先してもらえませんか?」 『ベレトはいるよ。藤咲君の後ろにいるかも…』 スピーカー会話だったので、藤咲の近くにいる武生や灼にもその会話はダダ漏れだった。 凄い形相で後ろを振り返った藤咲に二人は驚く。 「だーかーらー、そんなものは暇な奴が作り上げた都市伝説なんですって。向坂さんがダメなら、他の奴に頼みます」 『あっ、冗談だから…』 「じゃあ頼みますからね!こっちが依頼の話をしてるんですから、あんまりふざけないでくださいよ」 『別にふざけてるわけじゃないんだけれど…』 維胡琉が話終わる前に、切断ボタンをタッチし通話を切る。 ベレトは確かに、突然現れるんだよなあと思っている武生と灼だったが、数秒間を置いて睨むように二人を見る藤咲。 「…なんだよ。二人もさっさと現地に行けば?また逃げ回るかもよ?」 「別に何も言ってねえよ…」 「とりあえず行ってくるわ」 「何かあったら六角屋の携帯に連絡をいれるから、電源は入れておいてよ。ほら」 藤咲は携帯電話用の携帯充電器を投げ渡す。 灼はキャッチし、頷いた。 「…ああ、行ってくる」 二人を見送りもしないで、パソコン前の椅子に腰かけて背を向けたまま手を振る藤咲。 いつもの事なので、二人もそのまま振り返らずに出て行った。 ☆ 現地であるショッピングモールについたのはそれから1時間後。 二人は維胡琉と落ち合うと、ターゲットである龍志狼が入ったのを見たという喫茶店に入った。 「ごめんね二人共…。確かに、ここに入ったのは見たんだけど…」 「別に向坂さんのせいじゃないでしょ。なんか俺達の追跡も、最初から分かってたみたいだし」 フォローを武生が入れるが、「でも…」と維胡琉の表情は浮かない。 灼は目を細めつつ、話題を変えた。 「そういやなんで志島、藤咲の事知ってんの…」 その言葉に、ああ、と気づいたように武生は呟く。 「去年、ネットにアップするのに、編集とか上手い奴を教えてって水鏡さんに頼んだら、紹介されたのが藤咲だったんだよ」 「お前の動画、あいつが編集してんの…?」 「えっと…そもそもなんで編集とか…?確かバイクでのレースだったっけ」 「正確にはフリースタイルモトクロス(FMX)って言うんだけど、まあ、大体そんな感じ。スポンサーを得るなら、編集技術とかもいるかと思って」 「スポンサー向けはわかるけど、俺の所にも来たよなお前…」 「生のバンド演奏とかしてもらいたいじゃん?」 「へえ、本格的なのね。ハンターの傍ら、大変なんじゃない?」 福良練の紹介もあって、動画のテーマソング等も、灼のバンドの曲が使われている。 今回武生が海外から帰国したのも、そのあたりの権利等の話し合いもあった。 去年はFMXが活発な海外の国に渡ったりと何かと多忙で不参加だったが、大和でのFMX大会やフェスティバルも年に何回かあり、今年は参加するつもりらしい。 確かに本格的ではある…。 「そろそろ付き合うのも面倒臭くなってきた…」 「既にハンターは辞めてるんだよ龍。維胡琉さんもそれは知ってる」 「あっ…私としたことが…」 しまった、と言わんばかりに維胡琉の姿をした龍志狼は笑顔を二人に向けた。 「…本当の向坂さんはどうしたんだよ」 「彼女なら心配いりませんよ。ちょっと気絶してもらっているだけですから」 「本当自由な奴だな…」 呆れた様子に心外だ、と言いたそうな龍だったが、彼は維胡琉の姿のまま一つため息をついた。 「やれやれ、私の負けですね」 「それにしては、今回はやけにあっさりだな…。変装も今回は分かりやすかったし」 「おや、お気づきになられましたか」 ウザいと言いたくなるような笑顔で言い放つ龍に、二人は無言の威圧を与える。 やがて根負けし、龍はもう一つ大きくため息をついた。 「はいはい白状しますよ。今回はちょっと、六角屋君にお願いがありましてね。ああ、志島君もついでに一緒でいいですよ」 「まあ、今日は付き合えるけど」 「いいけど…約束は守れよお前…」 「3日以内に私を探し出さないと、無関係な人が呪いで死にまーすってメールですか?やだなあ、あれ冗談ですよ冗談!」 「いいから本題に入ったら?」 龍の態度に二人はウザさを感じつつも、放置したら放置したで実際に呪いで殺してしまいそうだと改めて面倒くささを感じた。 呆れながら話を聞いていたが、次の龍の言葉により、事態は急変する。 「これを見てください」 すっと一枚の白黒の写真を見せる。 そこには知らない人物が3人写っており、一人は足、一人は首から上、もう一人は体右半分が消えている。 そして、それを見た後に龍を見た。お前がやったのかと言わんばかりに。 「違いますよー!失礼ですね。これは、とある知らない人の火葬の時に、火葬場から拝借したものなんですが…」 「火葬場ってお前…」 「いつか罰が当たるぞ」 「話は最後まで聞いてください。いいですか?火葬場から拝借したものなんですが、この3人は何らかの呪いを受けているようでしてね」 結局、他人の火葬場に居て他人の私物の写真を盗みだした理由は無かったが、それよりも呪いという言葉に訝し気な顔をする二人。 誰が見ても、さすがによくない感じというのはわかる。 灼は武生よりも、それを強く感じていた。 「でも、この写真はかなり古いものだし、その仏さんの私物なんじゃないの?」 「武生君、正解です。その仏は足が無かった。ですが、話はこれから。その家族も、1ヶ月後に死んでるんですよ。全員。わざわざ調べました」 「全員って…」 実際に見ているだけで寒気がしてくるような写真だ。 だがそれだけ。 一家全滅を招くような呪いを振りまいている写真には到底思えない。 「そんなわけで、この全滅した家は仕方ないとして、残りの右半分と首から上が無い人達を探してみようかと」 「人助け?珍しいな」 「…手がかりとかは?」 「え?そのための君達と交友の広さでしょう?私は教えてあげた。それで終わり」 人助けするつもりがあるのか、ないのか。 手がかりも無いため、やる気が全く起きない灼だった。 「わかったよ…。その代わり、解決したら今度こそ約束守れよ…?」 「解決できなくても約束は守りますよ。下手をすれば、もう全員死んでるかもしれないし」 「縁起でもねえ…」 「今日中に終わらなさそうだな…」 二人はため息をつくと、まず喫茶店のトイレの個室(男女共用)で気絶していた維胡琉を救出し、怪異にも関わったことがある彼女にも手伝ってもらう事になった。 しかし、4人はまだこれが、大変な怪異による事件の序章という事にまだ気がついてはいなかった…。 ◆六角屋灼 異次元帰還後、藤咲真琴への借りを返すべく、彼の要請によるハンター業もそれなりにしつつも、彼がギターボーカルをしている『inflammation』の練習とライブに明け暮れている。 王貴桃李との『Iris+』の活動も積極的に行っており、バンドマンの中では彼の知名度も高い。 龍志狼の事は気にかけており、今回の新たなる怪異の事件の解決後は、暫くは安堵の日々を過ごす事だろう。 入生田宵丞、東雲直、甚目寺禅次郎とも交流があり、柳茜は出雲のため厳しいものの、義貴つつじや福良練等も含め、自身のライブに招待するくらい交流を続けているようだ。 ◆志島武生 異次元帰還後、ハンターを辞めフリースタイルモトクロス(FMX)を学ぶべく海外へと飛ぶ。 その際にプロモーション等の作成を藤咲真琴に手伝ってもらったことが切っ掛けで、彼には今もパソコン関係の協力はしてもらっている。 大和での大会やフェスティバルには、積極的に参加している姿が見れることだろう。 また、西大陸を主要支援国に世界の紛争地域や救助が必要な所に援助ボランティアを派遣する団体に所属し、支援物資の運搬や現地支援や、子供達との交流などの活動にも参加しているようだ。 ◆龍志狼 異次元帰還後、灼から逃げるように各地を転々としつつ、物騒な事件を起こしては灼の気を引く構ってちゃん。 時折り今回のような人助けのようなこともするが、基本的にはいい人ではないため、飽きたら灼をはじめとした解決できそうな人間に押し付けて逃げだす。 しかし新たな怪異の事件の解決後、約束通り灼の紹介した寺に1年間は住み着いていたという律儀な部分も見せた。
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辿り着けばすでにそこは終わりの始まり 巨大な隔壁が閉じて、ドームは再び閉ざされた空間となる。 その空間に存在するものの中で人間と呼べるものは――その定義には諸説あるだろうが――二つだけ。 青き魔神グランゾンを駆る木原マサキと、それとは対照的な赤いボディの究極ロボ、ヴァルシオンに乗るユーゼス・ゴッツォ。 「貴様がここまでやるとは意外だったぞ……木原マサキ」 「……いいたいことはそれだけか。ならばさっさと死んでもらおうか!」 グランゾンがその力で虚空に穴を開け、そこから青白く輝く大剣を掴み出す。 その切っ先をヴァルシオンへとかざし、マサキは鋭い殺気と共に言葉を叩きつけた。 だがユーゼスはそれに対して、尊大な態度をまったく崩すことなく応じる。 「お前がシュウ・シラカワを倒した時には、正直少なからず驚いたものだが……. まさか貴様のようなクローン如きがここまでの性能を見せ付けてくれるとはな。 造物主として鼻が高いよ……ククククク」 挑発のための意図的な嘲りの笑い。 動きを止めていた無人機たちがざわざわと蠢き始めた。 グランゾンを取り囲むODEシステムの尖兵たるバルトール、そしてミロンガ。 それらが規則正しい編隊を組んで、隙のない包囲網を完成させた。 だがそれだけだ。仕掛けてくる様子はない。 ユーゼスにとっては、このアースクレイドルの中核にあたるこの場所で戦闘を行うのは本意ではない。 いまだに「卵」とって必要なエネルギーは、わずかではあるが不足している。 そのエネルギー収集のためにも、ここでダイダルゲートを含む重要施設に損傷を受けることは、できる限り避けたいのだ。 「秋津マサトに吸収された貴様の人格を、わざわざ蘇らせた甲斐があったというものだ。 貴様は実によく働いてくれたよ、木原マサキ。私の人形としてな」 ゆえにここでユーゼスは真実を暴露した。 木原マサキという名の哀れな人形のアイデンティティを突き崩し、絶望を与え、歯向かう気力を奪いつくす。 そしてあわよくば自分の新たな手駒として、フォルカ達にぶつけてやろうと考えていた。 ラミアを人形と見下し、すべての人間をクズだと断じた男が、結局はユーゼスの操り人形に過ぎなかったという、残酷な現実。 己の全てを否定され、それを突きつけられて、まだ己を保っていられるものか。 ユーゼスの中に、心ならずも下卑た優越感が湧き上がる。 さあ、どんな反応を見せてくれるのか。 「な――ん、だと?」 呆けたように問い返すマサキの声を聞いて、ユーゼスは仮面の奥、その両眼を細める。 そうだ、驚いたか?貴様は私の手のひらから飛び出すことなどできないのだ。 絶望したか?お前の命は誕生したときから、私の為のみに存在していたのだ。 だが、マサキのその声はユーゼスに向けて発せられたものではなかった。 それはユーゼスのあずかり知らぬことではあったが、シュウによってすでにマサキの正体は知らされていたのだ。 その上でユーゼスを、造物主を殺すと決めた。 理不尽で不可避な己の運命に、己の手で決着をつけるために。 奇しくも同じ運命を背負ったラミア・ラヴレスとは真逆の方法で。 全世界すら己の下に位置づけるほどの圧倒的なエゴイズムは、元から人形と呼べるようなものではなかったのだ。 そしてマサキにはそのとき、全く別の声が聞こえていた。 心の中に響くのは、悲しげで儚く、そしてどこか哀れみが混じった女の声だ。 ――聞こえますか、木原マサキ……この……声が………… 遠いような近いような、鐘のように海鳴りのように、誰かの声が感覚全体に染み渡るような不思議な感覚がマサキを包む。 その声に対し、心の中でマサキは問い返した。 お前は何だ、と。 答えはない。 代わりに返ってきた膨大な情報の奔流がマサキの感覚を支配、いや埋め尽くした。 ダイダルゲート。 マサキの次元連結システムすら、その一角に過ぎないほどの、膨大なオーバーテクノロジーの集合体である。 そしてそれはユーゼスの悲願でもある「ゼスト」へ送り込む「魂」を収集するための装置であり、このフィールドを閉鎖し、外部から隔絶された空間を作り出すためのものでもあった。 だがその莫大なエネルギーは、ほんの僅かに制御を誤るだけで、あっさりと星をも砕くほどの暴走を生み出す諸刃の剣だ。 それをを制御するためにユーゼスが目をつけたのが、Omni Dendro Encephalon System ――通称、ODEシステム。 この世界において最も優秀なCPUは何か?と問われれば、それは人間の脳であると言えるだろう。 銀河の半分を席巻する科学力を誇るバルマー帝国ですら人間を兵士として、いまだに戦争の兵器として用いている。 つまりそのスペックは、最先端の高性能AIと比べても見るべきものがあるということなのだ。 木原マサキにも理解不可能なテクノロジーを持つ者たちも認める性能を誇る演算ユニット。 それを生体ユニットとして組み込んだODEシステム。 そしてこのシステムを考案した地球よりも、はるかに進んだ異星人の技術で組み上げられたのが、このアースクレイドルそのものなのだ。 その最高のCPUが、それぞれにエネルギー出力調整のための演算を行い、その結果及びデータをコアユニットを通じてそれぞれの端末、イコール生体ユニット更新。 そのデータを各自でさらにリロードしていく。 その際におけるコアユニットの負担はほかのユニットとは段違いだ。 全てのデータを統括、チェック、リロード、そのデータを端末へと送信。その繰り返し。 その負担に耐えるには、並みの「サンプル」ではお話にならない。 そこでユーゼスが目をつけたのが「ウィスパード」。 理解不能なまでのオーバーテクノロジーを理屈抜きにして実現させる。 その原理はユーゼスにも不明だが利用価値は十分だ。 計算するまでもなく解はそこにある。 これはユーゼスの仮説だが、アカシックレコードにつながることができる、ある種のサイコドライバー。 それがウィスパードなのかもしれない。 その名を千鳥かなめ。 「ぐ……あぁ……!」 マサキの中を無機質な情報が暴れまわる。 ラムダ・ドライバ。トロニウム・エンジン。カルケリア・パルス・ティルゲム。 次元連結システム。AI1.死海文書。ターミナスエンジン。 ダイダルゲート。クロスゲート・パラダイム・システム。オーラ力。ビムラー。 ゲッター線。マジンパワー。ディス・レヴ。T-LINKシステム。エトセトラ、エトセトラ。 たとえば脆弱なビニール袋に許容以上のものを詰め込めばどうなるか。 いわずもがな、歪む。限界を超えれば破れ、元の形に戻ることはない。 眼前のユーゼスが何か言っている。 だがわからない。何もわからない。 自分に何が起こっているのか。 自分が何なのか。 自分が誰なのか。 自分とは、一体何を、どこまでを自分というのか。 まるで深海の淵へと腐り落ちていく水死体のようだ。 圧倒的質量の情報の海水に押し潰され、その中へ中へと埋没していく。 肉が解け、剥がれ落ち、ゆっくりとさらに深く沈む。 とても、とても息が苦しい。 あらゆる方向から自分が侵食され、自分の中が「それ」でいっぱいになる。 ――何かいる。 見えはしない。だが得体の知れない何かを感じる。 何だ!手をかざし、足を振っても、振ろうとしても意のままに体は動かず、結局何も回答は得られない。 水よりもさらに粘質の何かが自分の全てを溶かしていく。 それで身軽になった体はそれでもまだ沈み続ける。 木原マサキは沈み続ける。動けぬままに。 急に浮上する。 あれだけゆっくりと沈んできたのにそれは一瞬だった。 目の前が開けた。 水面?の上に顔を出したマサキを、あの柱の中の女が見下ろしている。 その目には、先程見たような奈落の如き虚ろは存在せず、確固たる意思を込めた人としての輝きがあった。 ――あんたに……託すわ。 なんだと? ――あんたの「罪」は許されることじゃない。でもね……それでもあんたはユーゼスの…… ああ、そうか。 情報の海から、秩序なき濁流ではない「解」が組みあがっていき、それが思考の中に伝わっていく。 ダイダルゲートの内部構造が頭の中で確かな立体となってイメージされていく。 ユーゼス以外でそれを知るものなど、まさしくシステム自身である彼女だけしかいないだろう。 ドームの壁面の奥の、いくつかの重要なエネルギーバイバスの座標……そしてコアユニット。 理解した。つまりはそういうことか。 いいだろう、やってやる。お前の望みのとおりに。 だが、何だ。その目は。 その目が何故か――気に食わない。 ◆ ◆ ◆ このバトルロワイアルが始まってから、ずっと戦ってきた。 この柱の中で誰の助けも得られず、デビルガンダムに取り込まれたミオ・サスガのように。 ミオよりも長い時間、自身が救われる可能性などゼロに等しい地獄の中で。 バトルロワイアルは進行し、次々と人間が死ぬ。 負の思い、または気高き意思を抱いて、それでも次々と人が死ぬ。 その思念を「卵」へ送り続ける中で、データの海に、負の意思に、かき消されそうになる自我をさらに削りとられる。 やがてもう駄目かと諦めかけた時、わずかな反撃の機会が訪れる。 ゲッター線だ。 ダイダルゲートはフィールドにばら撒かれたゲッター線の意思をも吸収していた。 だからそれを通じてアカシックレコードが、魂の力が、自分に力を与えてくれた。 ほんの少し、わずかだけ。 ミオを守るためにその力を使った。 自分と同じくゲッター線を浴びた、まつろわぬ魂を彼女の元へと。 それはミオの解放、ゼストの卵を半壊させるという予想以上の戦果を産む。 だがそれによって解放された魂が、闘鬼転生をユーゼスに利用されるという形で今ふたたび囚われてしまった。 ユーゼスの目的の成就。それだけは絶対に許してはならない。 だからシュウ・シラカワが手繰り寄せてくれた最後のチャンスをここで生かす。 ゲッター線、つまりアカシックレコードとは、ビムラーやイデもそうだが、とどのつまりは意志の力だ。 だから強く願う。この力が後押ししてくれたあたしたちの思いが通じてくれと、強く強く強く――――。 そしてそれは何とか成功した。 シュウの魂を通じて、このゲートを破壊するために必要な情報を彼の心に送り込むことができた。 この木原マサキという人もユーゼスの犠牲者なんだ。 だからきっとやってくれると信じる。 ミオも、フォルカだっている。 きっと、きっと大丈夫。 そして自分はここで終わり。 もう元の世界に戻ることはできない。 もう生きてると言えるのかさえわからない。。 一人で歩くことすら、体を動かすことすらもうできない。 悲しい。寂しい。辛い。もう会えない。 だけど。 やっぱり。 あいつはこのままにはしておいちゃいけないから。 ◆ ◆ ◆ 女が泣いている。 だがそんなことは知ったことではない。 俺は俺の為にしか動かない。 利用価値があるのなら、それに乗ってやる。 ただそれだけのこと。 だが、気に食わないことがひとつだけある。 お前は――何故、そんな目で俺を見る? その目だ。その目をやめろ。 シュウ・シラカワ。 ホシノ・ルリ。 イサム・ダイソン。 プレシア・ゼノサキス。 ガルド・ゴア・ボーマン。 何故、お前たちがここにいる。 何故、いつのまにそこにいたんだ? 女、貴様の仕業か? 何のつもりだ! お前たちは俺に殺されたんだぞ? なのに何だ、その目は! 消えろ! クズどもの分際で、俺を、この木原マサキを……! 「哀れみの目で、俺を、見るなあああああああああああああああああああああああああ!!!!」 ◆ ◆ ◆ 景色が切り替わった。 意識はいつもどおり。 妙な感覚に支配されることもなく、これは自分の体。 それを確かめるために拳を強く握り締めた。 強く、強く、強く、怒りのままに。 目の前に奴がいる。 その間に立ちふさがる人形など物の数ではない。 「…………木原マサキ。私に従え。今なら悪いようにはせん。お前の性格は熟知しているぞ。 私に忠誠を尽くせなどとは言わん。お前は自分に利があれば、そこに傾く……それでいい」 ユーゼスが滔滔と繰言を吐き出している。 そんなものははじめからどうでもいい。 消してやる。何もかも。 女。 望みどおりだ。 貴様も、その後ろのクズどもも、人形も、ユーゼスも――――消えてなくなれ。 カバラシステム起動。 データ入力。 ワームホールを指定したポイント17ヶ所に同時展開。 計算終了。 ブラックホールエンジン、オーバードライブ。 胸部装甲解放。 重力操作、開始。 「愚かな……」 グランゾンが戦闘体制をとったのを見て、ヴァルシオンも動く。 その腕ををかざし、同時に無人機が陣形を組みなおす。 ヴァルシオンの腕が振り下ろされれば、周りのミロンガやバルトールが襲い掛かるだろう。 だが今のマサキには脅しにすらなりはしない。 ユーゼスの侮蔑の言葉にも、もはや何も感じない。 怒りだけがマサキの心を占めていた。 「撃て」 ユーゼスの号令とともに360°からミサイルの一斉射撃が襲い掛かった。 それを重力フィールド全開で防御する。 「どうした?そのまま亀のように固まっているだけか?」 今のうちに好きにほざけ。 もうすでに手は打った。 あの女がよこした、このダイダルゲートのデータ。 内部構造を把握し膨大なエネルギーを通すバイパスの重要な部分。 ここを攻撃すれば、このドーム全体を丸ごと破壊、いやこのエネルギー量ならフィールド全てを跡形もなく破壊するだろう。 もちろん普通の攻撃では頑丈な壁に阻まれ、攻撃は届かない。 だがこのグランゾンならば話は別だ。 空間の座標さえ判明すれば、そこにワームホールを展開するだけでいい。 次元孔が開き、そしてそこにあらかじめあった質量は、穴に吸い込まれて消え失せる。 つまりそこに大穴が開く。 ひとつの世界を閉鎖し、魂のエネルギーを収集する、その膨大なエネルギーの流れにだ。 施設の規模からすれば、小さな穴をいくつか開けたに過ぎない。 だが巨大なダムは、ほんの僅かな穴から決壊する。 だから――、 ◆ ◆ ◆ 爆発。 ドームの天井から、壁から、ありとあらゆるところから次々と爆風が噴出した。 その爆風に巻き込まれて無人機の陣形が崩れていく。 さらに崩落した壁や天井の瓦礫が追い討ちをかける。 「なんだ!一体――――何をしたぁッ!!」 もはやさっきまでの余裕はどこかに吹き飛んだ。 ユーゼスはヴァルシオンの腕部にある高出力のビーム砲、クロスマッシャーをマサキの駆るグランゾンへ向ける。 だが、遅い。 「――死ねぇぇぇぇぇぇええええぇぇぇぇえええええ!!」 マサキとグランゾンはすでに先手を取っていた。 乱れた無人機の陣形をフルブーストで駆け抜けていく。 そして青白い大剣――グランワームソードを振り上げ、ヴァルシオンに迫る。 「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉおおお!!?」 ギィンッ!という甲高い衝撃音が空間を引き裂くように響く。 とっさに防いだヴァルシオンの左腕が、クロスマッシャーの砲身ごと切り取られる。 だが、CPSによって処置を施されたこの機体は、そこにある、という歪められた因果律によって瞬く間に再生を果たす。 「この程度でぇぇぇぇえええ!!」 そのままヴァルシオンの後方に駆け抜けたグランゾンを追って、ユーゼスは機体を旋回させる。 だがそこに間髪入れずの第二撃。 「グラビトロンカノンッ!発射ッ!!」 グランゾンの解放された胸部装甲から放たれた、超重力の黒い光が真上に上昇していく。 そしてそれはドームの頂点で分裂、拡散。 あとは破壊の雨が降り注ぐだけだ。 容赦なく、慈悲なく、満遍なく、破壊を生む重力弾の雨が。 「ハハハハハハハハハハ!!アーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」 連続する爆発音の嵐の中で、マサキの哄笑が響きわたった。 ミロンガが、バルトールが、まるで蚊トンボのように叩き潰されていく。 その間もドームは崩れ、ヴァルシオンの周囲は瓦礫と無人機の残骸、爆風がミックスされた煙幕に包まれる。 そしてグランゾンの姿は見えぬまま、マサキの哄笑だけがユーゼスの耳に、やけに響く。 「おのれ!おのれッ!……メェガ・グラビトン・ウェーブッ!!」 もはやヴァルシオンの視界と共に、ユーゼスの心から余裕は失われていた。 味方であるはずの無人機を巻き添えにするのもいとわず、全方位に向けて重力波の竜巻を解き放った。 凄まじいまでの重力の暴風に吹き飛ばされる。圧壊、そして爆発。 次々と巻き込まれ、重力の嵐にひき潰されていく無人機たち。 「どうだ!この力!死ね!私にたてついた報いを受けろ!…………何ッ!?」 やがてその圧倒的なパワーに酔っていたユーゼスも気付くことになる。 すでにマサキとグランゾンは、先程のグラビトロンカノンで、ユーゼスや無人機と一緒に、外へ通じる隔壁をすでに破壊していたことを。 そしてもうこの場はユーゼスしかいないということを。 この場にはすでにいないマサキの嘲笑が聞こえてくる気がして、ユーゼスは怒りに身を震わせた。 「木原マサキ……人形如きがやってくれたなぁ……!だが……まだだっ!まだ手はある!」 ディス・アストラナガン。 このバトルロワイアルにおいて、撃破されても再生するという、明らかに規格外の機体。 この機体には今のユーゼスにとって、二つの利用法がある。 ひとつはディス・レヴそのものが「魂」を集め、動力源とするシステムだということ。 それをとりこめば、残りわずかのゼストに注ぎ込むためのエネルギーも補える。 そして、もうひとつ。 平行世界の番人たる者の乗機として、次元転移が可能だということだ。 脱出の術だったはずのCPSが破損し、ダイダルゲートもまもなく崩壊するだろう。 このままではこの世界とともに、全てが次元の狭間に飲み込まれて終わってしまう。 今はユーゼスにとっても猶予はほとんどないのだ。 ディス・レヴを取り込み、ゼストを復活させ、そして新たなる世界へ転移する。 「その世界で私は忌まわしい因果より解き放たれ、新たなる銀河の調停者となる!誰にも阻ませはせん……誰にもな……!」 ユーゼスの声は怒りに震えていた。 ゲートを開き、空間転移で崩壊が進むドームよりヴァルシオンは姿を消す。 爆発はさらに激しくなり、無人機は瓦礫に、爆風に吹き飛ばされて消えていく。 そしてODEシステムもそれらと同じ運命をたどる。 運命を弄んだ者が作り出した、魂の牢獄の崩壊だ。 そこに囚われた者たちは、その牢獄の崩壊、つまり自らの死を持ってそこから開放される。 やがて最後に残されたもの、千鳥かなめ。 彼女が囚われた中心部の柱にひびが入った。 大きな爆発がさらにそれを拡大していく。 崩れ落ちる。 炎が全てを埋め尽くす。 そして、最後の大きな爆発がとどめとなった。 これで終わり、あたしの本当の終わり。 やれることは全てやった。 託すべきものは全て託した。 最後まで見守ることはできないけど、きっと勝てると信じている。 ……あいつの魂は今、あの卵の中にいるのだろうか。 ごめんね。 いつも守ってくれたのにごめんね。 死なせてしまってごめんね。 助けられなくてごめんね。 待ってるから。 きっと勝って、みんなが解放されて、全部がハッピーエンドとはいかないけれど、やっぱり最後には勝つんだって。 信じて待つよ。 ずっと待ってる。 ずっとずっと待ってるからね…………ソースケ。 【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:ヴァルシオン(CPS強化) パイロット状況:激しい怒り 機体状況:良好 現在位置:??? CPSにより転移中 第一行動方針:ディス・アストラナガンをゼストに取り込み、この世界より脱出 最終行動方針:ゼストの完成】 ※アースクレイドルはダイダルゲートごと崩壊中です。 ※まもなく閉鎖空間が解除され、エネルギーの暴走によってフィールドは崩壊します。 ◆ ◆ ◆ 断続的に爆発が続くアースクレイドルを振り返ることなく、暗い通路を地上へ向けて進むグランゾン。 そのコックピットの中で、ロボットの操縦をこなしながらマサキは思考する。 この殺し合いに参加させられてから、もはや数えることも馬鹿らしいほどに繰り返された行為だ。 マサキがあそこでユーゼスと決着をつける事を避けたのには理由があった。 奴は自分に似ている。 首輪を解析したときに出た、ユーゼスのメッセージに端を発したその思いは、今になってますます強くなっている。 ユーゼスの計画したバトルロワイアル。 これは――そう、木原マサキ自身が計画した『冥王計画』に、実によく似ている。 自分の用意した舞台で、様々な仕掛けを用意し、その中でもがくクズどもの運命を弄ぶ。 「ならば……まだカードを隠し持っているんだよなあ……?ユーゼス……」 木原マサキが作り上げた究極兵器ゼオライマー。 凄まじいほどのその力に誰もが目を奪われた。 誰もがそれを最後の切り札、全ての鍵を握る存在だと思い込んだ。 だが違った。 ゼオライマーの他にも保険はいくつもあった。 だからユーゼス自身が何の策も無くのこのこ出てくるなど、何か保険がなければ考えられないと木原マサキは思ったのだ。 「さて……結末はどうなるか。面白いゲームになってきたな……」 ◆ ◆ ◆ 探し物が見つからない。 どんなに探しても見つからない。 大事なものなのに、失くしてはいけないものなのに、どこを探しても見つからない。 もう、どこにもなくて、跡形もなく消えて失せて、探すだけ無駄なのではないか。 そんな考えを少しでも抱くのが怖くて、無理やりに押さえ込む。 だって失くしたものがもう戻らないとわかったら、自分の全てがそこで終わってしまうのだ。 狭い通路だと思ったのはそこだけで、一旦抜けてしまえば広々とした人工の通路が奈落に向かって伸びていく。 銀河旋風の名を冠した巨大なロボットが、底のない闇に向かって落ちていく。 その機体を操るクォヴレー・ゴードンは無言。 時折、何かの反応がないかとレーダーに目をやる他は、ただ永遠に続くかと思われる底なしの闇を睨みつけている。 結局、どんなにクレーターの周囲を探しても無駄だった。 だからといって、クレーターの中心を探すことは躊躇われた。 そこにイキマの、最後の仲間の死を証明するものが存在していたら? そうなれば最早、自分の心は耐え切れない。 それが無意識のうちにわかっていた。 クォヴレーの記憶は、このバトルロワイアルの記憶だけが全て。 ゆえにそこで出会った仲間は、彼の記憶の全て、精神の全てとも言えるほどの容量を占めている。 例えば、自分にとって大事な隣人が死んだ時、心にぽっかり穴が開いたように感じるという話がある。 大切な人間との出会い、思い出。 それらが自分の心の中で大きなウェートを占めているならば、そうであるほどにその人間が亡くなった時に生じる喪失感は大きい。 そしてこのバトルロワイアルが始まってから、ずっと行動を共にしてきた男、トウマが死んだ。 クォヴレーにとっては、まさに半身をもぎ取られたに等しい喪失感だった。 一般論ならば、その喪失感を埋めるために様々な方法があるだろう。 ゆっくりと少しずつ、時間をかけて、様々な方法でその喪失感を埋めればいい。 だがここはバトルロワイアルの舞台。そんな猶予をクォヴレーに与えてはくれなかった。 だから激しい怒りと狂気で心の穴を埋めた。 そうしなければ前へ進めなかったから。 そこにとどまって悲しみに浸ることを状況が許してくれなかったから。 軋む心を怒りで無理矢理繋ぎとめ、悲鳴をあげる本能を狂気で押さえ込む。 だがそれはいつまでも続くものではない。そんな無茶に耐えられなくなるときがやってくる。 トウマに続きイキマを失えば、それは決定的となる。 だからクォヴレーは無意味とも思える捜索を今まで続けていたのだ。 しかしこのままでは結局のところ堂々巡りだ。 理性が働きかける。前へ進めと。 本能が拒否する。進みたくないと。 その葛藤の果てに――――クォヴレーは前へ進むことを選んだ。 轟音。 ブライガーが目指す先の闇から、大きな振動と共にそれはやってきた。 「――――ッ!?」 何かの爆発か。 一旦、そこで止まって様子を見る。 さらに爆発。また連続で爆発。 その音が暗闇から聞こえてくる。 揺れも心なしか大きくなってきている。 「何が起こっている……!イキマに何かあったのか!?」 焦りが狂気と怯えを増幅する。 ぎしぎしと頭の中で嫌な音がする。 視界が狭くなる。 心臓の鼓動が大きくなり、それがうるさくてたまらず、さらに神経を磨耗させる。 その時、ブライガーのレーダーが反応した。 「……熱源1?近づいてくる……イキマ……か……それとも……?」 クォヴレーは気づくはずもないが、それはこの爆発を起こした張本人。 そしてその爆発から逃れるべく地上へ向かってグランゾンを進ませる木原マサキの反応だった。 二機の接触まで、あとわずか。 【木原マサキ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG) 機体状況:内部機器類、(レーダーやバリアなど)に加え通信機も異常。照準のズレ修正済み(精密射撃に僅かな支障)。 右腕に損傷、左足の動きが悪い。EN2/3ほど消費(徐々に回復中)。グラビトロンカノン残弾0/2 シュウの魂とカバラシステムを併用することで一度だけネオグランゾンの力を使うことができます。 パイロット状態:激しい怒り、疲労、睡眠不足 、胸部と左腕打撲 、右腕出血(操縦には支障なし) 現在位置:D-6 アースクレイドルと地上を結ぶ通路を上昇中 第一行動方針:ユーゼスを殺す。そのために奴の保険を全て暴く手段を考える。 最終行動方針:ユーゼスを殺す 備考:グランゾンのブラックボックスを解析(特異点についてはまだ把握していません)。 首輪を取り外しました。 首輪3つ保有。首輪100%解析済み。 クォヴレーの失われた記憶に興味を抱いています。 機体と首輪のGPS機能が念動力によって作動していると知りました。ダイダルゲートの仕組みを知りました。 ユーゼスの目的を知りました。】 【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー) パイロット状態:錯乱状態。極度の疑心暗鬼。精神崩壊寸前。全てに対する重度の迷い。 これ以上の仲間喪失に対する恐怖。不安、焦燥。正常な判断能力の喪失? 記憶に混乱が。更に、記憶を取り戻すことに対し恐怖。 機体状況:右手首損失。ブライカノン装着。コズモワインダー損失。オイルで血塗れ。EN中消費。 現在位置: D―6地下。アースクレイドルに通じる通路を下降中。 第一行動方針:イキマを見付ける。彼を絶対に死なせない(けど、もしかしたら……) 第二行動指針:デビルガンダム(ディス・アストラナガン)の抹殺 第三行動方針:マサキ、ラミアの抹殺 第四行動方針:マーダーの全滅(イキマ以外、全員がマーダーに見えている?) 第五行動方針:なんとか記憶を……しかし……? 最終行動方針:ユーゼス、及び生存中のマーダーの全滅。これ以上、仲間を絶対に失わせない。 備考:本来4人乗りのブライガーを単独で操縦するため、性能を100%引き出すのは困難。 主に攻撃面に支障。ブライシンクロンのタイムリミット、あと7時間前後 トロニウムエンジン所持。 ディス・アストラナガンと接触することにより、失われた記憶に影響が……? マサキ、ラミアを敵視。シロッコは死亡したと誤認。 ディス・アストラナガンをデビルガンダム(または同質の存在)だと思い込んでいる 空間操作装置の存在を認識。D-3、E-7の地下に設置されていると推測 C-4、C-7の地下通路、及び蒼い渦を認識。空間操作装置と関係があると推測 ラミア・ラヴレスがジョーカーであることを認識】 ◆ ◆ ◆ 燃えている。 この閉ざされた空間から見える空には、いつも巨大戦艦ヘルモーズの姿があった。 それが燃えている。 落ちるか。 ついにユーゼスの牙城が。 「……見ているか、お前たち」 その光景を見てイキマは呟く。 この戦いの中で散っていった仲間たち。 この戦いが無ければ手を握ることは無かったであろう、人間たちに向かって。 あと少し。 かならずやユーゼスを倒し、お前たちの無念を晴らす。 急ぐ身ではあるが、ほんのわずかな時間だけ。 仲間たちの顔を思い浮かべ、目を閉じた。 「……む?」 そしてやがて異変に気付く。 このフィールドの周囲を囲む光の壁がわずかずつ色を失っていく。 それはダイダルゲートが閉鎖空間を形成する機能を失い始めた証だ。 もちろんそれをイキマが知る術は無い。 そしてディス・アストラナガンで空を飛んでいるから気付かない。 大地が震えていることに。 世界が終わりを告げていることに。 「……急ぐか。嫌な予感がする」 だが虫の知らせとでも言おうか。 例えようもないおぼろげな感覚がイキマの心にさざ波を立てていた。 加速するディス・アストラナガン。 グランゾンとラーゼフォンが生み出した巨大なクレーターが、みるみるうちに大きくなっていた。 【イキマ 搭乗機体: ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α) パイロット状況:戦闘でのダメージあり(応急手当済み) マサキを警戒。ゲームが終わっていないと判断 機体状況:両腕、および左足大腿部以下消滅 少しずつ再生中。 故障した推進機器も、移動に支障が無い程度に回復。 イングラムの魂が融合。現在は休眠状態。 現在位置:D-6 第一行動方針:クォヴレーを説得し、ディス・アストラナガンに乗せる 最終行動方針:ゲームをどうにかして終わらせる 備考:デビルガンダム関係の意識はミオとの遭遇で一新されました。 空間操作装置の存在を認識。D-3、E-7の地下に設置されていると推測 C-4、C-7の地下通路、及び蒼い渦を認識。空間操作装置と関係があると推測 】 【三日目 9 50】 前回 第255話「辿り着けばすでにそこは終わりの始まり」 次回 第254話「それぞれの『意思』」 投下順 第256話「悪魔転生」 第252話「命あるもの、命なきもの」 時系列順 第254話「それぞれの『意思』」 前回 登場人物追跡 次回 第253話「冥宮のプリズナー」 ユーゼス・ゴッツォ 第256話「悪魔転生」 第253話「冥宮のプリズナー」 木原マサキ 第256話「悪魔転生」 第251話「闘鬼が呼んだか、蛇神が呼んだか」 クォヴレー・ゴードン 第256話「悪魔転生」 第252話「命あるもの、命なきもの」 イキマ 第256話「悪魔転生」
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第二階層・水獄の階層 エストレアが、魔力により巨大な鏡を創り出す。 そこに移っているのは、第二階層、水獄の階層だった。 辺りは一面青い海に囲まれ、近くに二島、そして離れて一島の無人島が見える。 『ギャオオオオオウッ!』 巨大な咆哮と共に、海域から400メートル以上はある巨大な海蛇が、巡回するように泳いでいた。 始祖の悪魔アスクレピオス撃破 ―始祖の悪魔、これで3体目― 拠点に戻った四人は、エストレアに手に入れた6つの宝玉を渡すと、それを解放する。 光に包まれ、そこには派手な姿の男、椿ヒメ、久遠新、祈那、英カリン、来海セナの6人が出現していた。 「おいおい!まさか飛鳥の…」 「俺は…神だ」 「ウソ!カタメじゃん!!?」 「ん…?シュウ…?」 「…君も来てたんだ、ヒメ。でもよかった。無事で安心したよ」 「…ここ、どこ?」 「…君は」 「やあやあ、歓迎するよ親友。そして君に手伝ってほしいことがあるんだ」 「イクル先輩!?」 「そ、それに…っ!」 「おっす、セナもカリンも1年ぶりくらいか?」 思いもよらぬ邂逅にそれぞれ戸惑い、感動していると、エストレアから次なる階層の説明が入る。 ―3階層目は七竜の階層。飛鳥の竜として、我も試練の一つとして立ちふさがる。心せよ― ≪ツヅク≫
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ツインテールの日 「これでよし」 結界具を拠点内に置く上条森羅。 彼が作り出した呪具により、皆の髪型が元に戻っていく。 「へー、たまにはやるじゃんっ!」 「ま、野郎のツインテールなんて見たくないしね。男の娘ならいいけど」 烏月揚羽が、真っ先に喰いつきそうな上条が、皆のためにツインテールの呪いを直そうとしている姿に、見直している所だった。 土御門伍代が、彼の肩を叩いた。 「で?他に言い訳はあるかな?」 「…ゴ、ゴダイクンナンノコトカナ…?」 「ここまでの大規模な呪術、上条家である君しか考えられないのだが」 「誤解だって!それにほら、僕は今呪術の力を使えないしさ…」 必至に弁明する上条の背後から、エストレアが一言呟いた。 ―この異次元に於いて、貴様の力は戻っているはずだ。最盛期の呪術の力もな― 「おい!!なにバラしてんだよ!」 背後から呟かれた言葉に、上条はキレた。 「ふざけんなよ…僕だって男までツインテールにするつもりはなかったんだよ本当に。力の加減がさあ」 迫る皆の顔を見れず、横向きの顔で弁明をする上条。 「それに2~3日で元に戻るような呪いなんだって!こんな道具がなくてもさ!おい!近すぎだよ!なんだよこの距離!うわあっ!」 こうして、悪は粛清された。 また、貴方達の階層探索の日々が再開する。 たった一人の犠牲と引き換えに…。 始祖の悪魔バルバードニコル撃破 「ここは…?」 「戻ってきたのか…」 「皆、大丈夫…?」 拠点に戻ってきた、白神凪、桐石登也、牧本シュウは辺りを確認する。 他のメンバーの姿は見えるが、やはり柳茜の姿はない。 そこに、エストレアが全員へ向けて声をかけた。 ―竜の戦士が戻るまでの間、お前達は新たに開通した6層へと向かうがいいだろう― 6層。 バルバードニコルを倒したため、6層への道が開かれたのだ。 ≪ツヅク≫
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エピローグ~one year later…10~ 4月下旬。 桜がほぼ散り、新緑がぽつぽつと色づき始めるこの季節。 帰国した入生田宵丞は、葵にあるテレビ局へとやってきていた。 受付に来ると、誰を呼び出すでもなく受付嬢にちょっかいをかけていた。 「ばめ、出雲ぶりー」 「あれ?りゅーじゃない。桃李達に用事?残念でした、まだリハーサル最中で一般人はお会いさせることはできませーん」 親し気に宵丞が声をかけたその受付嬢こそ、土御門伍代のコネでテレビ局の受付嬢へと転身していた燕沢凛桜である。 しかしここで働いている事を宵丞は知っており、凛桜もまた、彼をはじめとした他の者ともプライベートで偶に会っているためか、そこに再会の感動はない。 「受付さーん」 「そっかー。じゃああらたの方に、近くのカフェで待ってるって伝えておいてくれる?出雲土産あるのよ」 「てゆーか、『出雲ぶり』って私出雲に行ってないんだけど」 「シズモがそう言っといてって」 「は?…意味わからないんだけど。あ、りゅーちょっと退いてて」 相変わらずの鎮守のつかめなさに脱力したのもつかの間、他の客が来た途端に宵丞を横へ追いやり、笑顔で客の応対を始める凛桜。 土御門で働いていた経験や茜のメイド時代の経験が活きているのか、応対も手慣れたものだ。 一通り客を捌ききると、再び会話にもつれ込む。 昼過ぎのこの時間帯は、意外と人の出入りは少ない。 そのため暇な事も多く、宵丞もそれをわかって話し込んでいた。 「話は聞いてたけど、スーツ姿のばめって見慣れないな」 「私も~。伍代様が紹介してくれたのはいいけど、メイド服の方が着慣れちゃってるわねー」 「でも央なら、写真とか撮りそうだけど」 「なんなら今度同窓会でもする?しずもりんも元気そうだったし――」 「受付さーん!!」 その時、今気づいたように凛桜が視線を横へ向けた。 宵丞もつられるように視線を向けると、桜木有布が少し怒ったような顔をしていた。 「…なによアル。ちょっと待っててって言ったでしょ」 「桜木いたの」 「いたよ!トイレ行ってたんだよっ!」 「あー、どうりで最初見なかったわけだ」 俺の方が先に来てたのに、と不満気に語る有布を宥めていると、宵丞はある人物がエレベータで降りてくることに気が付いた。 そして相手も気づいたようだが、特に挨拶する事無く受付を通り過ぎる。 用事があったわけでもなかったが、「深海さん」と声をかけたら、彼は立ち止まった。 「お前か」 「依頼ですか?」 「いや、仕事。」 「どう違うんすか…」 凛桜がちょうど客の応対を始めたため、少し離れた所にいる三人。 有布が最後にツッコミを入れたら、将己は目を一度瞬かせる。 「こいつ誰?」 「あれ、深海さん知らないでしたっけ」 「俺も知らないけど…」 そういやいなかったか、と12月末から続いた異次元での事件に、有布がいなかったことを思い出した宵丞。 将己が知らないのも当然だが、元より彼はいなかったのだ。 有布を将己に紹介したが、彼は「ふーん」とあまり興味をもってはいなかった。 「えーっと、深海さん?依頼じゃなくて仕事なんです?」 「ああ。意外に食いつくなお前」 「ハンターは辞めたんですか?」 「葵ギルドに所属してる。もうほとんど受けてねーけどな」 「へー、俺は紅ギルドなんすよねー」 「そうか」 あまり話が噛み合わない有布と将己。 将己にとって、知り合いでもなければ利益も興味も引く要素が無い有布。 有布にとって、接点がハンターという肩書のみという将己。 どうしたものか、と困っていたら将己の携帯電話が鳴りだした。 「ちょっと悪い」と携帯電話に出て通話する。 その通話時間は短いもので、用件だけ伝えると腕時計を確認した。 「知り合いですか?」 「まーな。時間だし、行くわ」 「お疲れ様です」 「ああ」 そう言ってターミナル方面へと、立ち去る後ろ姿を見送る有布達。 と同時に、ふとした疑問を隣の宵丞にぶつけてみた。 「そういえば、深海さんって何の仕事してんだ?」 「…なんだろ」 首を傾げる彼に、「知らないのかよ」と呆れた笑いをしながら、既に目の前にいない将己の姿を眺める二人だった…。 ◆燕沢凛桜 異次元帰還後、土御門伍代の紹介で葵の有名テレビ局の受付嬢として働き始める。 桜木有布とは、異次元帰還後に呼び出し互いに告白し付き合う事になる。 喧嘩をする度「あーあ、伍代様は優しかったのになー」と挑発していたせいか、彼が土御門によからぬ感情を持っている事には気づいていないようだ。 ◆桜木有布 改編後の世界でも、特に変わったことは無かったハンターの一人。 1年前くらいに凛桜に呼び出され、互いに告白し付き合う事になった。 が、付き合っても劇的な変化は無く、彼の恋は前途多難。 ☆ 「はい、オッケーでーす!」 「お疲れ様でしたー!」 「…お疲れっす」 王貴桃李、六角屋灼はそれぞれギターとベースを置き、近くにあった飲み物を手にする。 葵のテレビ局でのスタジオ収録が終わり、彼ら二人のバンド、Iris+の今日の活動は終了といった所だ。 「灼、この後予定は?」 「…あ、俺ちょっと用事があって」 携帯電話にメールが入っていたので確認すると、すまなそうに桃李に言う灼。 画面を見ると、入生田宵丞、甚目寺禅次郎、義貴つつじや福良練からメールが入っていた。 当初は彼らに会う用事…だったのだが、現在の用事とは一番最後に来ているメールだ。 差出人は藤咲真琴。 元、灼と同級生という事だったが、灼と一度も会話をしたことがなかったため、本格的に交流を続けているのはハンターになってからという奇妙な関係である。 そんな彼から送られてきたメールの内容は、灼の期待した通りの内容だった。 藤咲に電話をかけると、ワンコールで彼は出た。 『遅いよ六角屋。メールは見たんでしょ?』 「…見たけど…この情報は本物?」 『90%って所かな。僕、1時間前にメール送ったはずなんだけど』 「…悪い、収録中だった…」 電話の向こう側からため息が聞こえる。 『だから移動した可能性があるから90%』とトゲのある言い方で言われつつ。 『一旦うちに来なよ。もう一回サーチかけてみるからさ。この後用事ないんでしょ?なんだったら金髪の先輩も連れてきていいし』 「って言ってますけど…」 「じゃあ俺も行こうかなっ」 灼が他の者達へ、今日は無理、とかまた後日でいいか?とか返信している途中に桃李からの返事。 一旦携帯電話を上着の中へと入れ、頷いたら二人とも立ち上がる。 そして藤咲真琴の家…彼の場合、自宅が仕事場となっているのだが、そこへ向かおうとした時だった。 「桃李くーん、2時間後に紅でライブあるんだけどー」 「げっ、マネージャー…!」 「うわ、出たよ…」 立ち塞がるように、上条森羅が立ち塞がった。 今の彼は土御門邸から追い出されたものの、土御門伍代のコネにより大手芸能事務所にマネージャーとして潜り込んでいる。 王貴桃李のマネージャーは、伍代から受けた絶対条件として仕方なく請け負っているが、それ以外はプロデューサー兼務で、この1年で15人のアイドルを輩出してきた。 そこだけ見れば敏腕プロデューサーだ。そこだけを見れば。 「僕だってさっさと他の子の様子見に行きたいから、さっさと移動してくれる?」 「あ、じゃあ30分だけ行って、それから急いで紅に向かえば…」 「却下。今すぐに。タクシー待たせてあるんだから、早くしてよ」 いつも以上に険しい表情の上条だったが、やっぱり男のマネージャーは気に入らないらしい。 仕方ない、とがっかりした様子でギターをケースに入れて、持ち上げる。 「ごめん、また今度ってことで!次は1週間後だっけ?」 「そうですね、桃李さんも気を付けてください…」 「はやく!待たせるんじゃないよ!」 「灼もね!じゃあまた!」 慌ただしく走り去っていく桃李に手を上げて見送ると、灼もその足でテレビ局を出て、藤咲の家に向かうのだった――。 ◆王貴桃李 異次元帰還後、芸能事務所にスカウトされる。 鎮守由衛とは偶に連絡を取り合ってはいるものの、最近は仕事が忙しくなり頻繁には連絡をとれてはいない。 六角屋灼とのバンド、Iris+だけでなく、彼個人も人気アイドルとしてテレビで引っ張りだこである。 この夏から始まる情報バラエティで、レギュラーを獲得し忙しさが落ち着くどころか増す日々だ。 ◆上条森羅 異次元帰還後、土御門邸から追い出した伍代に泣きつき、何とか職を手に入れる。 そこで自由奔放にプロデューサーとしての再起を図っていたが、伍代の策略により王貴桃李のマネージメントを行う事が必須となり落胆中。 しかし断れば自分のクビなど、土御門の財力と影響力を持ってすれば簡単に飛ぶので、今は大人しくいう事を聞いている。 仕事はそれなりにできているものの、桃李の甘いマスクに惚れた女性スポンサーには「歳考えたら?ブス」等をはじめとした暴言がまずとぶため、過度に華やかな仕事はまず来ない。
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エピローグ~one year later…8~ 12時ジャスト。 柳茜は玖珂ベルルムと連携を取りつつ、エリスタワー1階へと潜入した。 「誰もいない?」 「気を付けろよ茜。奴さんら、結構名の知れたテロ組織らしいからよ」 ベルルムの言葉に頷き、エントランスに出た二人。 そこには人の姿は無かったが…。 「ここもかよ…。どうする?2階に――」 「行かなくても良さそうよ」 エントランスから3階まで吹き抜けになっている頭上を見上げると、そこには人型のロボットが10体ミニプロペラで体を引き上げ、空に浮かんでいた。 ベルルムはギアアックスと呼ばれるハルバードタイプの武器を構える。 対して茜は、右手に携帯電話、左手に星形のバックパックを取り出してアプリを起動した。 するとバックパックへと茜の魔力が流れる。 魔素が極端に少ない出雲の街中でも使えるようにと、微量の魔力でも反応するように松原エレナの祖父、松原クリストフが発明した機械装置だ。 そのバックパックが変形し、巨大な白銀の翼へと変化した。 もちろん、見た目はメカメカしいが、それでもまるでかつて大和に存在した竜、グレイシアの翼のように美しいフォルムをしていた。 「ベルはサーチをお願い。後、撃ち漏らした奴と」 「へいへい」 「じゃ、いっくぞー!」 ヘッドホンについたインカムのボタン部分を押すと、ゴーグルのように目を覆う装置が現れる。 ベルルムがそれで周辺のサーチを開始するのを確認すると、茜は頭上で機銃を構えたロボット達に目を細め、翼を羽ばたかせる。 翼から炎が噴き出し、その炎がきらきらと雪の結晶のように変化した。 この効果に特に意味は無いが、松原博士の拘りらしい。 茜は空を飛び、そのまま加速しつつロボット達と交差する。 キィン!という音が辺りに響くと同時に、翼に触れたロボット達は真っ二つに切断された。 「残しすぎだろ!」 「あんたの仕事でしょ」 分断されても、地面に落ちてもまだ動くロボットを丁寧に機械式のハルバードで潰していくベルルム。 その間も空中でキィンという音が響き、次々にロボットが落ちていく。 「おい!横からデカいのが来るぞ!」 「横!?」 ゴォォン!と轟音を立てながら、2階部分の壁をぶち抜き、10メートルはある巨大ロボットがエリスタワー内へと入ってきた。 そして飛行中の茜へと豪快なアームパンチが繰り出される。 「遅い遅いっ!」 ウイング『グレイシア』状態での茜の速度に、巨大ロボットの攻撃速度は追いつけていない。 確かに驚きはしたが、出落ち感溢れるロボットに余裕を見せつつ、難なく茜はアームを回避した。 が。 「ぐうっ!」 『おーほっほっほ!甘い甘い!まるで手作りチョコレートのように激アマですわよ!』 高笑いが聞こえ、巨大ロボットから声が聞こえる。 アームは回避したのに、茜の体が痺れて動かなくなったのだ。 そのまま落下し、地面に激突する前にベルルムに受け止められたお蔭で落下ダメージは無かったが、足だけでなく腕も痺れており、声まで満足に出せない状態だ。 『このスペシャル☆フジヤマ試作機の威力はいかがかしら?回避したと思ったら痺れていた。この二段構えが私の素晴らしい科学力でしてよ!おーほっほっほ!』 「辺りに強力な電磁波でも出してやがんのか…?茜、動けるか?」 問題ない、と言うようにジェスチャーをするが、まだ立っているのもフラフラの状態だ。 このままでは次のアームの一撃に耐え切れそうにない。 「仕方ねえ、リリーフだ!お前は少し休んで回復を――」 「そうはいかんよ」 突如、影から現れるようにぬるっと現れた老人。 老人は茜とベルルムの影を踏むと、二人の体が動かなくなる。指一本動かせない。 「このジジイ…!」 『ちょっとコザック、最初はこのスペシャル☆フジヤマ試作機のテストをさせてくれる約束でしょう?』 「アリッサよ、ちゃんと調査書を呼んだのか?無能な騎士連中はともかく、神子と戦乙女。すぐにそのロボットを破壊する手を使ってくるはずじゃ」 『舐めてんの?そんなガキ共、すぐに倒せちゃいますわよ』 「それに…あの臥龍も3層へついたようじゃ」 『臥龍…!それはキケンですわね』 コザックと呼ばれた老人と、アリッサと呼ばれた巨大ロボットを動かす女性の話をただ聞くだけしかない茜とベルルム。 中でも、臥龍…つまり臥龍ヒアデスの方が茜よりも強敵扱いされている事が、茜には面白くなかった。 「ジャッカルは心配ではあるが…レイスが上手くフォローしているじゃろう。レイスならば、双星姉妹に遅れはとるまいて。 それに残りはザコ。松原というハンターは少々手強そうで心配ではあるが、屋上の無能騎士団の連中ならば、今頃ロボットで何とかなっているはずじゃ」 『すべては作戦通りってわけですわね…。予想通りに行き過ぎるのも、些か不安はありますが…まあいいですわ。コザック、例のアレを』 「やれやれ…年寄りをこき使わせすぎじゃ」 コザックが懐から金色に輝く珠を取り出す。 それに魔力を込めると、辺りに青い雷がほとばしる。 それと同時に、雷光により影が消えたため茜とベルルムは動けるようになった。 「ベル!」 「俺の心配よりも、自分の身を守れよ茜!」 「…わっ!」 青き雷は手当たり次第に、変則的に辺りに奔る。 無差別で予想不能の動きに、直撃したベルルムと掠った茜は雷光が止むのを待ち、目を開けた。 お互い、特に怪我などは無いようだ。 未だコザックの持つ珠は金色に輝いているものの、再度雷が出るということもなく。 「お?なんともねぇぞ」 『じゃあお試しになって?』 「油断すんな!エストレア!」 巨大ロボットから繰り出されるパンチが、ベルルムを襲う。 咄嗟に駆け出し、星形状のバックパックを変形させようとする。 しかし、彼女の予想に反してバックパックはいつものように変形を見せない。 「な…っ…!?まだエネルギー残ってるはずでしょ!」 「バカ野郎!どけっ!」 巨大ロボットの強烈なパンチが、茜を突き飛ばして無防備のベルルムに直撃。 ベルルムは大きく吹き飛び、壁に激突し動かなくなった。 『あらまあ、神子の力を使いましたのね。本当なら跡形も無く破裂するはずでしたのに』 「ふぉふぉふぉ、じゃがまあこれで後は戦乙女のみ」 「ベル!…あんた達、いい加減にしなさいよ!」 ベルルムに突き飛ばされ、体勢を立て直している間に状況が動く。 どんな高架化は分からないが、おそらくあの青い電撃は機械類を一切動かなくさせる力だ。 魔力を流せる機能があるとはいえ、基本的に茜の七変化するバックパックは機械。 出雲対策用と言った所だろうか、敵ながら天晴れではあるが…。 「まずったな…通信も使えなくされてるし、タワーの入口も機械での開閉だから援軍も来ない…」 『ほーっほっほっほ!更にこのスペシャル☆フジヤマが開けた穴には、ネズミ一匹通しませんわ!万事休すって所かしら?ハンターはどうでもいいんですけれど、まあ私たちの野望のために死んでもらいましょう。グッバイ!!』 回避!そう思ったが、再びコザックがいつの間にか茜の影を踏んでいる。 「このぉっ…!」 「相手が悪かったのう。アリッサのみならば、戦乙女と神子を止めることはできなかったじゃろうに…じゃが安心せい、ワシも歳だから、老い先は短い。あの世で再び会おうぞ、戦乙女」 『天誅!!』 茜は目を瞑る。 死を覚悟したのではなく、まだ何か対抗策はないかと。 だが、無情にも辺りに轟音が響いた。 ベルルムは咄嗟に神子の能力、彼の場合は身体を一時的に超強化する力を使ったのだろう。 それですらあの有様だ。 魔力も満足に使えない出雲の地で、機械も発動しないこの状況。 完全に、死が――。 ☆ 『W,WHY!?な、なぜ…』 「なんじゃと!?速い、速すぎるッ!!」 どうやら自分はまだ息があるようだ。 それどころか、体が満足に動く。 アリッサが攻撃を外した? と思った矢先、聞き覚えのある声が茜の耳に届いた。 「フフフ…ハーッハッハッハ!!!このォ!!臥龍ヒアデス様をォ!!忘れてもらっては困るぞォォオォ!」 『ど、どうやってこのタワーの中に!?完全に入口は封鎖しており、スペシャル☆フジヤマが空けた穴に近寄れば、気づくはず…』 「ぬるゥゥゥいッ!!!この私が…キサマらテロリストに一切の備えもしていないと思ったかッ!!キサマらテロリストが行う、非道極まりない出雲の機械技術を封ずる対策を想定していないとでも思ったのかッッ!!」 ヒアデスはタワー入口を指さした。 そこは完全に爆発して吹き飛ばされており、更に彼の部下数十名が火薬式の手榴弾を構えている。 「あ、呆れたわ…この出雲でそんな原始的な道具をいつの間に…」 「私はァ!!この出雲の、法王様を守る盾なのだァッ!!ならば…故に…いつでも裏の裏のそのまた裏をかくのがこの臥龍ヒアデスなのだよッッ!!」 「さ、さすがは隊長格よ…!恐れいったわい!」 『ふ、ふざけないで!そんな原始的な武器で、このスペシャル☆フジヤマを破壊できるとでも本当に思っているのかしら!?それに臥龍ヒアデス!貴方の武器は機械式だから、どの道使えはしないじゃない!』 「貴様見破ったのかッ!!!?この流れなら、私が入口をこのアルデバランで破壊しやってきたと思うはずッ!!裏の裏のそのまた裏の裏をかいたと言うのかッ!?」 いつも以上に叫んで、ヘイトを集めているヒアデス。 その間に彼の部下が一人、細長く布に包まれた物を茜に持ってきた。 茜は真田に頼んでいた物が到着したことにほっと安堵し、持ってきた部下に感謝の意を伝えると布を取った。 布から現れたのは、二振りの真紅の直刀。 『D』と名付けられし、茜の魔導具だ。 「アリッサ!!抜けておる場合ではないぞッ!!!戦乙女が!!」 『しまったっ!!』 狼狽する敵二人とは対して、ヒアデスは余裕の笑みを茜へと向ける。 信頼にも似た笑みを向けつつ、小さくつぶやき。 「フ…今回ばかりはこの臥龍ヒアデスがあえて譲ってやろう。あえてだ。次はハンター風情が出しゃばるんじゃあないぞッッ!」 「さて…と」 ヒアデスの言葉を無視しつつ、茜が魔導具を構えると魔導具から不思議な力が放出される。 茜の場合、こちらはあまり使用しないが…魔導具周囲1キロ範囲の特殊な力を無効化するという魔導具の効果。 最初に茜のバックパックの電力が戻った。 それに気づいたコザックは、慌てて茜へと飛びかかる。 「いかん!何かする気じゃ!」 『させませんわ!』 「エストレア!!」 今度こそ、茜の言葉と共にバックパックは反応し盾へと変形した。 七変化の一つ、まずシールド『エストレア』で巨大ロボットのパンチを無効化するだけでなく、衝撃を巨大ロボットに跳ね返す。 巨大ロボットは吹き飛んだが、これくらいではダメージが届いていないくらい装甲は硬いようだ。 「猪口才な…動きを止めていてもらおうかの!」 「アドラメレク!!」 七変化の一つ、バックパック『アドラメレク』の形状へと戻り、紅く光る。 出雲外から広範囲に渡り、魔素をこのバックパックへと集まり始める。 それは茜の魔力へと変換され、この出雲に於いても飛鳥並の魔力を発揮させるという効果だ。 「じゃが踏んだァッ!!これでお主は動け…!?」 「ざーんねん」 既に飛んでいた。 七変化の一つ、ウイング『グレイシア』。 先刻も発動した翼への変化により、巨大ロボットが空けた穴からエリスタワーの外へと、空高く舞い上がる茜。 七変化の一つ、ブーツ『ミスリル』へと変化させ、落下と共にブーツから炎を吹き出し、ジェット噴射のように急加速する。 「頼むよ、『アスカ』!」 七変化の一つ、アーム『アスカ』により、直刀を持つ腕が鉤爪へと変化する。 巨大ロボットの頭上へと、『ミスリル』によるジェット噴射加速もプラスし、二本の直刀による倍撃を繰り出した。 更に鉤爪による一撃でロボットの装甲に傷がつき、コクピットのアリッサの姿が見えたものの、致命的な一撃にはならなかったようで巨大ロボットは体勢を立て直し、茜から距離を離した。 『有り得ません!コザック、もう一度影を!』 「やっておるわ!効きやせん!」 魔導具の効果ではなく、七変化の一つ、ベルト『ウロボロス』の効果。 ウロボロスを模したベルトが青き光を放ち、状態異常などは受け付けない。 他にも効果はあるが、今回は割愛しよう。 「今降参するなら、これで勘弁してあげるけど?」 『シャラップ!調子にのるなよ小娘!!』 「あらら」 煽り耐性低すぎない?と薄く笑って、茜はベルトから更に変化を行う。 『おーほっほっほ!勝った!その効果ならコザックの影縛りは受けないでしょうねえ! でも効果を変えたらコザックはまだ貴方の影を踏んでいますのよ!!』 「ち、近寄るなアリッサ!!この女、まだ『変化を解いて』おらん!!」 「変化が一つだけっていつの私の話をしてるのよ。エクスハティオ!」 七変化の一つ、ヘルメット『エクスハティオ』。 エクスハティオの頭部を模したヘルメットの効果は、火属性変化と特殊技ABBAの強化の二つのみ。 更に、ここで魔導具のもう一つの特殊効果も更に発動する。 魔導具で斬りつける事に、最大3倍まで威力が上がる特殊効果。 2回斬りつけたので既に最大火力。魔導具『D』も燃え上がらん程の真紅の光を放っている。 これ以上威力を上げることもできるが、そうなると反動で自分もただでは済まないのが、異次元から戻ってきた劣化と言えるだろう。 そのためこれ以上上がらないように、現在はリミッターがつけられている。 『さ、さすがはCクラスハンター、柳茜…』 「だからいつの私の話をしてるのよっての!」 右の直刀でロボットを斬りつけ、氷漬けにする。ウロボロスの力の効果の水属性変化。 続けて左の直刀で斬りつけ、爆撃を起こす。エクスハティオの力の効果、火属性変化。 「Bクラスハンター、柳茜。地獄で覚えておきなさい!っどーんっっ!!」 最後にベルト『ウロボロス』をバックパック『アドラメレク』へと変化させ、ヘルメット『アドラメレク』で強化されたABBAを巨大ロボットにブチ込む。 大爆発と共に、跡形も無く巨大ロボットは消滅した。 「やばっ、やりすぎたかも!」 「また爆発オチかよ茜!」 苦しそうに体を起こしながら、ベルルムが背後からお疲れの意を込めて声をかける。 そんな事言ったってしょうがないじゃん、と返そうとした時、彼女らの目の前に銀髪の貴族風の衣装を纏った男が現れた。 その男は、巨大ロボットからすんでの所で救出したアリッサを抱え、空を飛んでいる。 「まだ仲間がいたの?」 「勘違いをしないでもらおうか、戦乙女。今回は君の健闘を称え、挨拶に伺ったまで」 暫く茜とベルルムは顔を見合わせた後、何言ってんのこいつという視線を男へと向けた。 男は気にせず、フ、とキザったらしく笑うと背を向けマントを翻して歩きだす。 「この出雲は必ず我々、朱赤い檻が手に入れる。天空神の名に掛けて、この出雲をあるべき姿に解放するために、な」 「今回は退いてやるわ…次は戦乙女、貴様がいない時に現れたいところじゃの」 「ちょっと、はいそうですかって見逃すとでも…!?」 余裕そうに立ち去る男、それに駆け寄る、爆発の余波によりボロボロのコザックを追おうとした茜とベルルムだったが、男と茜達の間が巨大な光によって阻まれた。 魔力とも、法術とも違うその力。 驚き、二人は一瞬立ち止まってしまった。 「フ…所詮は井の中の蛙。確かに魔導も法術も恐ろしい力ではあるが…世の中には更に上の力があるという事を忘れるな」 言うだけ言って消えた者達に、呆気に取られて見ていた二人。 すぐに正気に戻ったのは、誰かの悲鳴だった。 「なんだァこれはァァァァ!貴様らハンターがこんな惨状にしたのかッッ!?」 「あ、やっば」 「だからやりすぎだって言ったろ茜!」 「はぁ?知ってんのよ、あんた最後、法術使って私の力強化したでしょ!」 「は、はあ~?そんな事するわけないだろ!証拠あるのかよ!?」 「うるさいうるさァァァァいッ!!これだからッッ!!!ハンターは嫌いなのだッッ!!!事情聴取だ来いッッ!」 こうして、激怒したヒアデスから逃げるべく、二人は全力でエリスタワーから去って行った。 ヒアデスに捕まれば、ギルドが不利な事になるのは明白。 そりゃあ少しは非を感じている二人だったが、エリスタワーの管理者はヒアデスではなくポルックスなのだから、そちらと交渉して今回の一件を説明すれば丸く収まる。 なので全力で今はヒアデスから逃げる事を決めた。 「待てェェいッ!逃げるんじゃあないッ!!」 「うるせー!事情はちゃんとポルックスちゃんに説明するっての!!」 「やっぱりギルドとは連携できないッ!!!騎士団の誇り高き精神とは噛み合わないッ!!」 新たな脅威が訪れはしたが、戦乙女をはじめとするハンターギルド。 そして常に敵対発言をしているものの、肝心な所は協力してくれなくもない騎士団。 この二つがあれば、出雲のどんな脅威も退ける事ができるだろう。 ◆柳茜 異次元帰還後、Cクラスハンターへと昇格したのを切っ掛けに、風見次郎から声を掛けられ開設したばかりの出雲支部へと身を置くことになる。 そこで色々な事件を解決し、つい先日Bクラスハンターへと昇格する一方で魔導具の作成も積極的に行い、出雲支部では第一号の魔導具所持者となった。 状況判断にも長け、出雲支部の中ではそのハンタークラスが指し示す通り一番の功労者。 唯一の欠点といえば、市内戦に於いてはその力の被害が大きいため、その際は真田斎がストッパーとしてよく組まされる。 これでも異次元どころか、気象制御装置を止めた時よりも力は弱くなっているというのは本人談。 『戦乙女』という渾名を知らない者は、この大陸ではほぼいないくらいの有名人。 ◆玖珂ベルルム 異次元帰還後、扱いこなせていた法術の力が、弱体化により再び使いこなせなくなった。 そのため鳳仙エルハイアに頼みこみ、騎士団の監視下ではあるがハンターギルドへの所属を認められる。 こと戦闘系の依頼では、柳茜や松原エレナと組むことが多くフォロー役に回る事が多い。 一方で一人での依頼の場合は出雲支部の中で誰よりも効率的に動ける典型的なソリストだが、その真価が発揮されることは今後ほぼ無い。 面倒見もよく、後年は新人育成に精を出した。 ◆臥龍ヒアデス 異次元帰還後、いつもと変わらず法王に忠誠を誓い鉄甲を振るう。 ハンターギルドを常に敵視しいがみあってはいるが、ハンターギルドの必要性を説いた、実は出雲支部開設の影の功労者でもあるがそれが明かされる事は今後無いだろう。